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「ほら、レオ。ママのおっぱいは要らない?」
「レオ様。私のおっぱいをお飲みになられませんか?」
離乳食どころか普通の固形物だって食べられるというのに、どういうわけか(想像がつかないでもないが)こうして母乳を勧めてくる二人。というか、あからさまに胸を持ち上げて誘ってきている。いや僕まだ一歳なんだけど。
「ま、ママ、だいじょぶだから……マリアしゃも」
さすがにこの歳で母さんと呼ぶのは違和感しかないのでママと呼んでいる。が、まだ舌が上手く回らない。
「じゃあじゃあ、ママにちゅーして?」
「そ、それなら……」
まだ精神衛生的にもマイルドな刺激だろう。授乳プレイはハードルが高いのだ。少なくとも僕には無理。
ちゅ、と母さんのふっくらした柔らかな頬にキスをする。次いで、母さんがきゃあきゃあとまるで乙女のような声を上げた。はしゃぎ過ぎである。
マリアさんを見れば、物欲しそうな表情をしていた。おねだりする形になってしまうため、立場上それが許されない。
「マリアしゃもちゅーする?」
「いいのですか?レオ様」
「あい」
なんというか、捨てられた子犬を見かけた時のような感情になってしまったから、とは言えないし上手く発音できない。
「そ、それでは、その……お願い致します」
ちゅ。同様にマリアさんの頬にもキスをした。何故かそれだけで凄く幸せそうな顔をするものだから、僕まで嬉しくなってしまう。恥ずかしいから何度もはできないけれど。
それはある日のことだった。いつもは鍵がかかっている父さんの書斎に、何故か入ることができてしまった。誰かが掃除したきり、鍵をかけ忘れたのだろうか。まだ見ぬ父に思いを馳せながらも、やはり好奇心というのは抑えられない。
周りに人がいないのを確認してから、忍び足で書斎へと侵入した。気分はコソ泥である。別に何かをちょろまかそうというわけではない、はず。
本棚の一番下の段なら、僕の身長でも手が届く。試しに一冊取り出して、パラパラとめくってみた。こっちの世界では、表音文字――即ちアルファベットのようなものを使うらしい。絵本を読んでいればある程度の語彙と規則性は身につくので、それを元に読み進めていく。
案外読めるね、これ。どうやら魔法に関する書物らしく(背表紙は見逃していた)、表紙を見れば『基本』の意を持つ文字列が並んでいる。つまり、入門書のようなものだと考えていいだろう。
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