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うん、読めるし、理解もできる。その本に書かれたコツとやらに従い、比較的安全な魔法『ブリーズ』を起動する。
「其れは浄化の風の如く『ブリーズ』」
ぶわっと、優しいそよ風が室内を走り回る。どうやら成功したようだ。
入門書によると、魔法とは人の精神に根差したものらしい。人の精神は文化や営みに映し出され、文化や営みは言語によって記述される。つまり魔法を使うトリガーは言語であるらしいのだ。この、精神・文化・言語・魔法の四つの相関性からなる魔法理論を四元論と言う――と、読めた。はてさてさっぱりである。
正確には、魔法とは精神に依存した魔力を扱う行為全般のことを指し、さっきの『ブリーズ』みたいな言葉でその現象を定義して固定化したものを魔術、と言うらしい。
ひとまずこの本を読了できれば、簡単な魔術は扱えるようになるということだろう。これちょろまかしてもいいかな……などと、前言撤回したくなる思考回路が僕の脳内を支配する。
よし借りよう。一念発起して本を抱えたまま書斎をあとにする。よたよたな駆け足で誰にも見つからない内に、自分の部屋へ戻ってきた。ミッションコンプリートである。
これからはちょっとずつ隠れて魔法の勉強もしよう。節度を持てば大丈夫なはずだ。見た目相応の中身じゃないし。
朝は、体力作り、夜は魔法の練習だ。じゃあ昼は何をしているかというと、この屋敷で働いている人たちの観察である。
「お、坊ちゃん。何かつまみ食いですか?」
まず始めに向かったのは厨房。晩ご飯の仕込みをしているコックさん――ダンさんがいた。身綺麗にしている人が多いこの屋敷で、ダンさんは珍しく無精髭を生やしている。別に見た目に制約があるわけでもないので咎められることはない。
そのワイルドなおじさんっていう見た目から想像できるように、性格もなかなかワイルドである。屋敷主の息子であるぼくにもラフな言葉遣いで話しかけてくれる。他の人――特に執事さんは堅苦しい口調の人ばかりなので、庶民的な口調というのはやっぱり落ち着くのだ。
「余ってるのある?」
「スープパンの切れ端なら今ありますぜ」
というわけでそれをいただいた。このダンさん、なかなか逞しい性格をしているけれど、作る料理は繊細そのもの。指先が器用なんだろうなあと思う。もう少し大きくなったら料理も勉強してみたい。
「んまー」
僕がサムズアップするとサムズアップが返ってきた。
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