第1章 色々な意味での覚醒

4/4
4381人が本棚に入れています
本棚に追加
/1201ページ
 この間、冷静に情報収集をしていた彼女は、まず周りから仕入れた自分の名前を思い返し、眉間にしわを寄せながら考え込んでいた。しかしふと思い付き、自分付きだと言う侍女に手鏡を持ってきて貰った途端、全ての疑問が綺麗に氷解する。 「これって……、やっぱり私の顔よね……」  軽く自分の頬をペチペチと叩きながら鏡の中を覗き込んだ彼女が、あまりの衝撃で呆然と呟いた。 「名前を聞いた時から、なんとなく聞き覚えがあるような気がしていたけど……」  そして幼さが残る中にも、十何年後かの容姿がはっきりと推測できる自分の顔を確認した彼女は、色々諦めた表情になって結論付けた。 「ここは本当に、あの乙女ゲーム『クリスタル・ラビリンス』の世界なのね……。それで私が王太子の婚約者で、彼のルートのライバルキャラ、エセリア・ヴァン・シェーグレンに転生しちゃったと言うわけか……」  散々やり込んで、全ルートを攻略コンプリート済みだった彼女は、当然ヒロインの行く手に立ちはだかる悪役令嬢、『エセリア・ヴァン・シェーグレン』についての情報も熟知していた。 「ふふふっ……、王国内でもトップクラスの家系。加えて容姿端麗、知識も教養も文句なしの公爵令嬢ですって? それはそれは……、容姿も能力も平々凡々だった私の転生先としては、身に余る光栄……」  そこで皮肉げに微笑んだ彼女は、手鏡を掛け布団の上に投げ捨て、勢い良くベッドの上に立ち上がりながら天に向かって拳を突き上げ、魂の底から怒りの叫びを上げた。 「んなわけね――だろ!! そんなのが、何の足しになるってんだ!! ネットもスマホも同人誌も無い所で、生きていけっかぁぁ――っ!! 責任者出て来い!! ふざけんなバッキャロ――――ッ!!」  その雄叫びを耳にして、隣室に控えていたらしい医師や侍女が、泡を食って室内に飛び込んで来る。 「何事ですか!?」 「お嬢様! どうしましたか!?」 「お気を確かに!」 「あぁん? 私は完全に正気よっ! いかれてるのは、この世界の方よっ!!」  彼女としては実に真っ当な主張をしたのだったが、当然それが周囲に理解される事は無く、彼女の絶対安静の時期が更に延長される事となった。
/1201ページ

最初のコメントを投稿しよう!