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覚醒当初、脳裏をよぎった遠い未来のバッドエンド回避より、はっきり言って現在の暇潰しの方が、彼女にとっては遥かに重要だったからである。
「もう、我慢できない…………。本当に限界よ……」
(あれも無い、これも無い、無い無い尽くし……。無い、無し、無しと言えば……、為せば成る為さねばならぬ、何事も……)
そしてダラダラと過ごしては、誰に言うとも無く不満を垂れ流して悶々としていた彼女が、この日この時、天啓に打たれた。
「そうだわ!!」
「お、お嬢様?」
いきなり叫び声を上げたかと思ったら、素早くソファーの上で仁王立ちになった彼女を、ビクリと全身を強張らせたミスティが薄気味悪そうに眺めた。しかしそんな視線に気付く様子も見せないまま、彼女は益々意気軒昂に叫んだ。
「パンが無ければケーキを食べれば良いように、楽しめる娯楽が無ければ、自分自身で新しい娯楽を作り出せば良いだけの話じゃない! どうして今の今まで気が付かなかったの!? 待ちの姿勢なんて間違っているわ! 楽しければ正義!! これは唯一、絶対の真理だわっ!!」
「は? あの……、お嬢様?」
「見てらっしゃい。私はこの娯楽に飢えた可哀想な世界の民の、救世主になってみせるわっ!!」
そして「おーっほっほっほっほっほっほっ!!」と、これは高飛車な公爵令嬢らしい高笑いを彼女が続けていると、軽いノックの後にドアを開けて、彼女より何歳か年上の少年が姿を見せた。
「なんだい? 随分騒がしいね」
「ナジェーク様。あの、エセリア様が……。突然、訳の分からない事を仰いまして……」
彼の登場にミスティが救われた様に駆け寄り、縋る様に訴えると、未だにソファーの上で高笑いをしている妹を眺めた彼は、小さな溜め息を吐いて彼女を宥めた。
「ああ……、うん。最近色々、君達の気苦労が増えているみたいですまないが、取り敢えず破壊行動に及ばないうちは、温かく見守って欲しい。お父様とお母様には、またちょっとエセリアが変だと伝えておくから。何か問題が生じても、君の落ち度にはしないと約束するから安心してくれ」
「申し訳ありません、ナジェーク様。宜しくお願いします」
八歳の子供から労りの言葉をかけられたミスティは、感謝と安堵のあまり涙ぐんだ。そんな穏やかな空気を切り裂く様に、先程まで高笑いしていた彼女の声が室内に響く。
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