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そんな予想外の事を告げられて、エセリアは目を丸くした。
「はい? カーシスの手ほどき、ですか?」
「ええ、すみません。年下のあなたに、こんな事をお願いするなんて」
「それは構いませんけど、どうしてそんな事を?」
動揺など瞬時に消え去り、エセリアが思わず理由を尋ね返すと、ナジェークとイズファインが顔を見合わせる。
「イズファイン?」
「私から説明するから」
躊躇ったのは一瞬で、イズファインはエセリアに視線を合わせ、徐に語り出した。
「エセリア嬢。実は我がティアド家には、ここ三代に渡って何かにつけて張り合っている家が存在しているのです」
「張り合っている? どうしてですか?」
「両家の三代前の当主が、当時同じ女性を好きになりまして……」
そこでイズファインが何故か口ごもったが、エセリアは嬉々としてその話に食い付いた。
「え? 一人の女性を巡っての争いですか!? まさか決闘をなさったりとか?」
「エセリア、いきなり失礼だろう」
ナジェークが呆れ気味に注意したが、彼女は聞く耳持たなかった。
「でもお兄様! 好奇心を掻き立てられるシチュエーションですよ!? それで結局、どちらが恋の勝者になられましたの?」
ウキウキしながら話の先を促したエセリアだったが、イズファインが淡々と説明を加える。
「その女性は、当時の国王陛下の側妃になられて、両者とも振られた形になりました」
「……すみません」
「いえ、エセリア嬢が謝る必要はありませんから」
思わず謝罪した彼女を、イズファインが穏やかに宥める。するとエセリアはすぐに気を取り直し、素朴な疑問を口にした。
「でもそれなら振られた者同士、傷を舐めあって意気投合しなかったのですか?」
「傷を舐めあうって……」
「国王陛下に怒りと嫉妬心を向けられない分、互いに『お前が邪魔しなければ良かったんだ』とばかりに八つ当たりして、いがみ合う様になったらしいです」
妹の発言を聞いたナジェークは頭を抱え、イズファインは困った様に説明する。そこでエセリアは、思わず正直な感想を漏らした。
「……もの凄く残念な、ご先祖様達ですね」
「だからエセリア……。もう少し言葉に気を付けようか」
「ナジェーク、良いから。言っていたら段々、自分でも残念なご先祖様に思えてきた……」
少年達が揃ってうなだれたが、イズファインは何とか気を取り直して話を続けた。
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