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「その後、両家の跡取り息子がほぼ同じ年代に生まれてきて、毎回張り合う事になっているのです」
「と言う事は、イズファイン様も?」
「はい。私の相手は、クリセード侯爵家当主嫡男のライエル・ヴァン・クリセード殿です。彼は私より五歳年上ですが」
そこまで聞いたエセリアは、難しい顔になって尋ねた。
「五歳年上……。失礼かもしれませんけど、成人した後ならともかく、子供のうちは勝負にならないのではありませんか?」
「ええ。さすがに父達もそれは分かっていて、自分達が張り合うのはともかく、息子の私達に何かで勝負をさせようとはしなかったのですが……」
「どうかしたのですか?」
不自然に口を閉ざしたイズファインを見て、エセリアが不思議そうに尋ねると、ナジェークは一瞬逡巡してから、静かに妹に事情を語った。
「例のパーティーの時、両家の諍いを以前に耳にしていた姉上が、『カーシスなら体格差や年齢差があっても、気軽に対戦できます。斬り合ったり殴り合ったりするより、遥かに紳士的で平和的ですわ』と勧めたそうだ」
それを聞いたエセリアの顔が、盛大に引き攣った。
(お姉様、どうしてそんな売り込みまで……。何か、話の先が読めちゃったわ)
そう思ったエセリアだったが、一応確認を入れてみる。
「それを真に受けたティアド侯爵様が、カーシスで対戦しようとクリセード侯爵様に挑戦状を叩き付けたのですか?」
「ああ、駒の片面ずつに両家の家紋を描いた、特注品持参で乗りこんだんだ」
「あの……、それで、イズファイン様が負けてしまわれたとか……」
「……惨敗だった」
恐る恐るイズファインに尋ねてみれば、沈鬱な表情で予想に違わぬ内容を語られ、エセリアは勢い良く頭を下げて謝罪した。
「すみません! 何かもう、本当にすみません!」
「いや、私が負けたのはエセリア嬢のせいでは無いから。それにコーネリア嬢の提案も、妥当な物だと思う。確かにカーシスでの勝負は、斬り合いや殴り合いみたいに野蛮じゃないからね」
イズファインは苦笑いしながらエセリアを宥めたが、ナジェークは困り顔で話を纏めた。
「だが、さすがにイズファインが、ティアド侯爵に叱責されたそうだ。実力を付けて雪辱戦を挑むと、侯爵が息巻いているらしい。それであれの考案者がエセリアだとパーティーの時に説明を受けていたから、お前に練習相手になって貰いつつ、指導をして欲しいそうだ」
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