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「誰の発案なのかは知らないが……、小早川様が社会勉強の一環として、上のお子さんを連れて海外旅行に行かれる事にしたら、下のお子さんを預かる事になった会長が『それなら美久も一緒に連れて行って欲しい』と仰られたそうで……」
そこで深々と溜め息を吐いた杉本が、部下達に鋭い視線を向けながら厳命した。
「良いか? くれぐれもお三方が事件や事故に巻き込まれたりしないように、全日程万全の態勢で、最大限の注意を払え。分かったな?」
「分かっております」
「ご安心下さい、部長」
主任達が力強く頷いた背後で、真紀達も小さく一礼したのを見て、杉本はなんとか不安を抑え込んで話を終わらせた。
「それでは皆、解散してくれ」
しかしそれと同時に、桐谷が拳を天井に向かって突き上げながら、嬉々として歓喜の叫びを上げる。
「いやったぁぁ――っ!! グルメにエステにカジノに観光よ! 全部経費よ――っ!?」
「おい、桐谷。お前な」
「そうよねー。会長の妹さんはプライベートでの旅行だし、あまり仰々しく護衛できないものねー」
「さり気なく同行して、お世話しつつ護衛しなくちゃいけないし」
「岸田に長谷川も、物見遊山じゃ」
「菅沼さん、偉い! よくやった! こんなにおいしくて豪勢な話、滅多に無いわよ!?」
「それもこれも、あの間抜けで気の毒な元ホストに、感謝しないとね!」
「違いないわ」
そして主任達からの咎める声など完全に無視しながら、上機嫌に「あはははは」と豪快に笑い合う女傑達を見て、杉本は不安だらけの表情で男二人に頼み込んだ。
「阿南、篠田……。くれぐれも宜しく頼む」
「全力を尽くします」
縋るような目を向けられた二人は心底うんざりしながらも、仕事だと割り切って杉本に向かって頭を下げた。
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