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場所は変わって、信用調査部門。
自分の机で書類に目を通していた小野塚は、不審な物を見つけてしまった為、思わずそれを持ち上げてしげしげと眺めてしまった。
「……うん? 何だこれは?」
しかしそれが自分の手に回って来た意味が分からなかった為、彼はすぐさま席を立ち、上司のもとへと向かった。
「部長、今宜しいですか?」
「ああ、構わないが、どうかしたのか?」
「どうして新規採用者の資料の中に、奴の物が入っているんですか?」
小野塚が「佐藤健介」名義の資料を差し出しながら尋ねると、吉川は途端に渋面になりながら事情を説明した。
「実は……、あの騒動の後、奴が懲りずに来社して、受付担当者とエントランスで押し問答をしていた時、偶々来社した社長と顔を合わせたそうだ」
それを聞いた小野塚は、呆れ果てた顔になった。
「奴はどうしてあれだけの目に合わされて、またのこのこ出向いて来るんですか。マゾですか?」
「あれだけ心身共にズタズタにされたから、余計に自分の事を認めさせたいと、ムキになったのかもしれんが……」
そこで疲れたように溜め息を吐いた吉川に、小野塚は疑わしそうに尋ねた。
「まさかあいつ……。社長相手に『自分を雇ってくれ』とやらかしたわけでは無いですよね?」
「やらかしたから、これがここにあるわけだ」
それを聞いた小野塚は、片手で顔を覆いながら呻いた。
「……馬鹿だ。あの社長が直談判に感動して、無条件で就職を認めるなんてあり得ないのに」
「当然だ。交換条件を出された」
「交換条件?」
嫌そうに問い返した部下に、吉川は微妙な表情で話を続けた。
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