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毎朝、高校へと通学する道で何かあったらしい。部活の朝練のため早朝だった。
電信柱の前で跪き、男が両手を合わせて一心不乱に祈るような仕草をしている。電信柱の下にはコップに活けた花とお菓子、それに写真立てが置かれていた。
交通事故でもあったのだろうか?
そう考えたが、最近そんなことは無かったように思う。長年、この辺りに住んでいるが事故の記憶は無かった。
少し迂回するように男の後ろを通り過ぎると、ブツブツと呟く男の声が耳に入った。男は謝っているようで、さらに地面に手をつき土下座しだした。
「ゴメンなさい、ゴメンなさい、なんとかしたいけれど、どうしても、どうしても無理なんです。避けられないんです。許して下さい◯◯君」
異常な謝罪ぶりに、足早に去ろうとしたが男の口にした名前を耳に入りギクリと足を止めた。
◯◯は自分の名前だったからだ。それに避けられない、という表現もおかしい。
思わず振り返ると男は無言でこちらを見ていた。地面に置かれた写真立ての写真が自分と似ているように感じた。
気がつくと振り返りもせず、全力で走っていた。
学校に着いて、ようやく後ろを振り返ったが誰もいなかった。
それ以来、その道は通らないようにしている。
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