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昔、学生の頃付き合っていた女の子の手は、驚くほど、柔らかかった。
あかぎれなんか知らない手で、自分の知っている女・・・母親やばーちゃんの手とはまるで違うなと思った。
「あーあ。手、ボロボロだなあ」
ブツブツ言った隣に座る彼女から、フワリと、何やら良い香りが漂ってきた。
見れば、チューブ型のハンドクリームを手の甲に伸ばしているところ。
「何の匂い?」
「バラ。効くと良いんだけど」
いい香りなのに、当人は少しばかり眉を寄せて難しい顔。
俺はその顔に苦笑いして、必死に塗りこむ彼女の手を取った。
「貸して」
自分より一回り小さな手に、クリームを塗ってやる。
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