摩天楼

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唇が、触れた。 「じゃあ、また」 顔にかかった影が離れて、終電に乗る背中を見送った。 寒空の下、マフラーを巻き直して、歩みを進める。 マンションの扉を開けた頃、ポケットに入れた携帯電話が震えた。 "今日はありがとう" 迷った末、同じ言葉を打って返す。 メールを送信した後、携帯電話の電源を消して放り投げた。 "また行こう" 文末に書かれた言葉には、何も返さなかった。 もう、貴方に伝える言葉はない。 好きだった。 好きになんて、なりたくなかったけど。 私は貴方を、恋愛感情で好きだった。 貴方はキスをしたけど、私はそれより、大事な一言の方が欲しかった。 一言。 欲しかった言葉を、私から貴方に告げることはしないよ。 貴方を好きになんて、なりたくなかった。                 「摩天楼」‐終‐
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