おいでよ、つわものどものらくえんへ

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紛争地域 ――何だ、これは。 交差する殺意。行き交う魔法。鼻孔を突き刺す血の臭い。 全て、戦争というふざけた悲劇の中では日常と化しているものだ。 それでも男は、目の前の光景に息を呑む。視界に映る、戦争という悲劇の中でも非日常な光景を前にして。 たった一人の青年。 自分達が戦う王国軍の兵士とも、ましてや、自身の所属する革命軍にも、こんな青年はいなかった。 漆黒のコートを纏った青年の姿――男はようやく気付く。 自分達の力が全く通じない、怪物を相手にしていた事を。 ――……ふざけるな。 ――何も知らない癖に……俺たちがどんな気持ちで……どれだけ虐げられていたかも知らない化物が……! 青年の周囲、いや、男以外の全ての革命軍の仲間たちが地に伏せている今。男が浮かべた感情は、恐怖ではなく怒り。 そして、男は声を絞り出した。"百人以上"の優秀な兵士を、たった一人で汗を流す事もなく無力化させた怪物に対して―――― 「化物が……何故、俺たちの邪魔をする!」 魂を込めた叫び。死すらいとわないといった言葉を投げ掛けられ、青年は事も無げに言葉を返す。 「依頼だったから、だけど」 「ふざけるな……この国が一体何をしてきたか知らない訳があるまい!! 民は貴族から搾取され、奴隷のように扱われてきた! それを覆そうとするのを、依頼の一言で片付けると言うのか!」 「ま、そうなるね」 「貴様……それでも人間か」 力で及ばないせいか、憎悪を込めた視線しか向けられない男。対し、青年は溜息を吐いた。 「あんた、さっき人のこと化物呼ばわりした癖に……何を言ってるんですか? てか、そんなに革命を成功させたかったなら、お前たちは何で俺らに依頼しなかったの?」 「……お前たちのような悪魔に」 「その悪魔を信じたのが、この国だった訳だ。ま、革命って言葉で濁してるけどさ、お前たちがやってたのも虐殺な訳よ。俺の知ってる奴は、最小限の命で国一つ救ったぜ?」 一歩、一歩と。 軽い調子で紡ぎながら、青年は男との距離を縮めていく。 もう逃げられない。青年が突き出した手が視界を埋め尽くした時、男はあらん限りの殺意を込めて叫んだ。 「スタージャの悪魔共がぁぁあああああ――――!!」 ☆☆☆
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