241人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ほぉ」
僅かに目を細めるグロム。
朗らかで明るい空気は一瞬で霧散し、明らかに警戒を込めた眼差しを向けてきているのが分かる。
だが、同時にラストは見逃さない。自分を見下ろすこの男が、警戒と共に抱いた好奇心を。
何故、自分の弱みである筈の魂胆を――手の内を晒すのか、グロムは心のどこかで知りたがっている。
「そんなに怖い顔するなよ。ここでやりあって、俺が怪我でもしたら……クレア・フォーリスが恥かくんじゃねえのか?」
「確かに。クレアはそんなこと、望まないだろうな……だけど、聞き逃せないことを聞いちまったから、一応の確認は取りたいものだろ?」
「お前がどこの誰かも知らないのに、何で教えてやらなきゃならないんだよ」
――追え。
――追って来い。俺から全てを聞き出そうとしろ。
――お前が俺を一知る時には、俺はクレアという男を十知る。
心中で唱えながら、グロムを嘲笑うようにして挑発するラスト。
だが、グロムがその言葉に対して浮かべたのは、怒りではなく笑みだった。
「結構な物言いだな、ハハ! こりゃあ、クレアが気に入るのも無理はないか!」
「……よくアイツのことを知ってるようだが、お前は何者だよ。アイツの同輩か?」
「まぁな。でも、俺はお前のことはよく知ってるぜ? この前、ビルに叩き付けられた事とかな!」
「……あ?」
何故それを――それを知る人間は限られている。
例えばそれは『遺伝子』。しかし、このグロムなる男は――『遺伝子』よりも背丈は大きい。
身体的な特徴が合致しない。
ならば、スタージャでも『遺伝子』と対等に話せる間柄にある人間なのか。
いや、違う――筈だ。グロムと名乗ったこの男からは、『遺伝子』から感じる圧倒的な強者なる格が存在しない。
ラストの脳内で、目の前の男が何者であるのかというピースが錯綜していく。
間違っても、見覚えがない――しかし、その答えはグロムの口からあっさりと告げられた。
「あのビルの所有者、俺だからな! ま、すぐにレンが来たし、今の調子とか見てれば大丈夫らしいから……安心したぜ!」
最初のコメントを投稿しよう!