大怪獣観戦

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その日――とある女が一枚の仮面を付け、小さく微笑んだ。 どれだけの時間が経っただろうか。あの日、夫が昏睡状態になってから。息子が深い眠りに就いてから。そこから立ち上がり、息子が自分の足で歩んでから。 だからこそ、女は薄く微笑む。 そこにあるのは純粋な歓喜であり、母としての深い愛情が伴っている。 そして、同時に浮かぶのは――類ない殺意。純粋な結晶とも呼ぶべき二つの感情は、確かに彼女の心を等しく燃やし尽くす。 きっと――あの男も見ているだろう。 もしも現れたならば、責任もって自分が殺さねばなるまい。それが――血を分けた姉弟の責務であると信じて。 彼女の名は――『殺戮女帝』ライト・フォーリス。 そして、また――とある男は、沸き立つ群衆を見つめて僅かに微笑む。 この風景の中に、かつて自分もいた。 世界への希望を抱きく者、己の限界を知り絶望する者。数多の人間の人生の分岐点となる、ここランドで過ごした時間は――無駄ではなかったのだろう。 クレアと出会ったことで、自分の隣で目を輝かせる最愛の女性は今も生きている。 あの男と出会ったことで、人生の好敵手を見つけられた。 僅かに腫れた頬を撫で、周囲の女性の視線を我が物にする男の名は―― 『魔神』ゲート・ファラモス。 そして――ここではない別の世界で、ランドの闘技場を見つめる男がいた。 かつて世界を欺き、その全てを裏切ってでも手に入れようとした力があった。 しかし、その企みは最悪に看破され、今は手にすることは出来ない。 それでも、男は諦めようとしなかった。諦めきれない。 諦めないからこそ、男の計画は――この戦いを以ってまた始まっていく。 黒幕というには、あまりにも優しすぎた彼の名は―― 『召還王』スー・ゼラム。 そして――"四人"の最強の眼差しを受け、青年は闘技場へと足を進めていく。 かつて、己の力で兄のように敬愛する人間を失った。その尻拭いをして、一人の友を失った。 嘆いても悔やんでも、その二人が帰ってくる訳ではない。 故に、青年が歩んだ道は――これまでと同じ、長く険しい茨の道。 偽りの最強達とは違う、本物の最強の背中を追い続け――青年は今日、この舞台に足を踏み入れる。 その青年の名は――クレア・フォーリス。 ☆☆☆
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