おいでよ、つわものどものらくえんへ

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スタージャ とある一角 「大変だったようね」 「だったようですねぇ」 さほど広くもない部屋の片隅で、一人の少女が青年を前に言葉を紡ぐ。 「……何で、そんな他人事のように話すの?」 「いや、別に? 俺にとっては大変じゃない事だけど、お前にとったら大変な事だと思ったからそう言ったんだろうなぁ……って」 「相変わらず」 小さなソファーであったが、カップを両手に青年の隣に腰を下ろす少女。 彼女の名は――サーミャ・ラーン。現在、ランドの一年生として、教師や学生から様々な意味で注目されている存在である。 しかし、それは表向きの顔に過ぎない。裏の顔――サーミャの本当の顔は、スタージャのSランカーの一員だ。 スタージャ。 この名を聞いて呆けた顔が出来るのは、まだ分別の付かない幼子だけ――と言われるギルド。 とある若者は目を輝かせて言う。何時の日か、自分はそこで名を馳せると。 とある貴族は憎々しげに吐き捨てる。あそこは、力だけを蓄えた野蛮な人間が集まる場所だと。 とある犯罪組織の長は噛み締める。未だに自分が生き長らえているのは、彼等に守られているからだと。 とある聖職者の妻は涙で袖を濡らす。 夫が殺されたのは、あの悪魔たちの組織があったからだと。 どんな依頼も受け、どんな仕事も完璧にこなすギルド。決して、看板文句ではないその実績は、世界を震わせ秩序を守らせるに充分なものだった。 故に、そこに所属する者達に、完璧に近い力を求められるのは自明の理であろう。 その完璧――世間でも天才と持て囃された人間が恐れる怪物。それが、スタージャのSランカー。 要するに、天才の中の怪物が彼女の本来の姿であり、同様に隣の青年もまた同じ地位に属している。 「俺、もうちょっと濃い方がいいんだけどー」 「……まったく」 「淹れ直して欲しいなんて言ってねぇからさ、次でいい」 旧知の間柄なのか、それとも青年の方が立場が強いのか。恐らく前者であるのは、サーミャの表情で説明がつく。 ランドでは浮かべる事のない、ふてくされながらも柔らかい色をサーミャが面に出しているのだから。
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