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闘技場 数分後
ランドの精鋭――いずれはこの国の内政や様々な分野で頭角を現し、率いていくであろう生徒達。
その彼等も、今日この時ばかりは熱狂をあげるただの群衆に過ぎなかった。
そうさせるのは、ラスト・アバズールとクレア・フォーリス。
ある者は、クレアの剣技をその目に刻み付けたいと願い――ある者は、ラストが足掻く様を嘲笑したいと野次を飛ばしていた。
そして、この熱狂の最中にも――一つの共通認識がある。
ラストが操る召還獣の力は、確かに絶大だ。並の生徒ならば、召還獣を打ち倒すことすら不可能に近い。
それに加えて、ラスト自身の身体能力もランドで五指に入る程だ。
しかし、そうだとしても――あのクレアの剣技を前にすれば、ラストの必敗は免れないだろう。
フォーリス家。
古くは国一番の剣豪と、最強と畏怖された魔術師が交わったとされる一族。
時代の移り変わりと共にその業を受け継ぎ、また進化させた剣は光すらも切り裂くとまで言われている。
流石に眉唾な話だと笑う者もいるが、実際にクレアの戦いぶりを見て、同じ発言をする人間は一人としていない。
それが、この群衆の共通認識であり――クレアがラストに勝つという唯一の確証となっていた。
だからこそ――誰が織り成したかも分からない熱狂に酔った群衆は、静まり返る。
耳が痛くなる程の騒ぎが、耳の奥を突き刺す静寂へと変貌したのは――――
「何で演習用の木刀、持ってきてないんだよ」
冷や汗を額に浮かべ、ラストは眼前の青年を睨み付ける。
無表情を決め込んではいるラストではあるが、見ようによっては苛立っているようにも見えた。
「お前のせいで、周りの奴等も引いてるじゃねぇか。要望に答えろよ、コイツ等はな……俺が負けるところを見たいんだ。お前が無様に負けるところを見たいんじゃねぇ」
そう語るラストの眼前で、青年――クレアは小さく微笑む。
手には何も握られておらず、腰にも帯刀されていない――丸腰の姿で。
「君にとっては通過点に過ぎないこの戦いでも、俺にとっては楽しみにしていた戦いでもあるんだ」
「ほぉ……」
「召還獣……俺にはもういないし、それを使える人間もほとんどいない。そんな世の中で、ラスト……君と戦いたい人間は山程いるんじゃないかな?」
「回りくどいな、さっさと言えよ。剣を持たない理由をよ」
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