大怪獣観戦

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犬歯を剥くラストの言葉に、クレアはどこか申し訳なさそうに微笑んだ。 「そんな楽しみにしていた戦いを……ものの数分、いや、数十秒で終わらせてしまうというのは……つまらないだろう? 俺は、剣を持って手加減できるほど器用じゃないから……」 「つまり、だ。俺はお前からすれば……ただの練習台……と」 「そう捉えてもらって構わないよ」 舐められている。 心の底から、爪先から頭まで完膚なきまでに、目前の女男は自分を下に見ている――並の武人ならば、心に灯火を燃やすに充分な火種だった。 だが、ラストは面では苛立ちを浮かべていたが、心中には実に狡猾な笑みを潜ませていた。 ラストがこの一週間を、何も闘技場の下見だけで終わらせていた訳ではない。 クレア・フォーリスの戦法。性格。そして、知人や友好関係。 そして――かつて、スタージャの上位ランカーの激突をその手で治めたという、尋常ではない実積。 かつてはランドでも語り草となったその事件は、今では情報統制され、一般人の耳に入るものではない。しかし、ラストは最早、スタージャのAランカーの資格を持つ超人である。 その程度の情報など収集できないような権限では、Aランカーの名が泣くというものだ。 そして――ラストは、心中に渦巻く歓喜を押さえきれずにいた。 ――フォーリス家の剣術を……自ら封じてくるなんて……最高の馬鹿だな、コイツは。 ――逆に、俺が怒りに任せて突っ込んでくるとでも思ったのか? そんな安い挑発で? ――舐められてる、何て好都合な事で怒りを燃やすかよ。 偽りの怒りによって歪められたラストの眉が、凶悪な笑みが滲むと共に弧を描く。 先刻まで浮かべていたクレアの柔らかな微笑が、戦意で研ぎ澄まされていく。 両者が醸す空気は、会場を覆う静寂をも包み込んだ。そして、二人の主人公は審判である教師の号令も待たずに――激突した。 しかし、この時の二人はまだ知らない。ラストが織り成した罠が――この闘技場を、四人の悪魔の戦場へと変貌させる事を。 この時はまだ――あのソラ・ゴーゴンジャックですら、知ることでは無かった。 ☆☆☆
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