大怪獣観戦

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一歩。 それは常人から見れば、充分な助走を付けた跳躍でも尚届かぬ距離だった。しかし、ラストからすればそれは――普段と何ら変わらぬ、人を叩きのめす為の一歩だった。 闘技場の石畳を抉る膂力から放たれた、間合いを詰める一歩。 砲弾のような勢いで放たれたラストの身体は、クレアの制空権へと容易に入り込んでいく。 ――勢いは。 ――殺さない。 クレアの懐に潜り込んだラスト。通常ならば、この間合いで放たれるのは、肘――それだけの両者の距離。 だが、放たれたのは、当て身にも似た背面での激突。スタージャで、ラストがランと相対した時に繰り出したものと同じものであるが――違うのは、その威力。 踏み込んだ右足は、石畳に巨大な亀裂を生み出す。もしも、その亀裂だけを見たとしたならば、人間が成したものとは誰もが想像しないだろう。 そして、踏み込んだ右足の力――その数倍もの威力を込めた一撃が、クレアを襲い―― 「甘い」 そう呟いたのは、サーミャと共に二人の戦いを見つめていたゲートその人。 何気なく呟いた言葉ではあったが、ゲートの瞳に映る光景は、その言葉を違わぬものとする。 ふわり、と。 必殺である筈の威力。それをまともに受けたクレアの全身が、軽やかに吹き飛んだ。 しかし、まるで全ての衝撃を吸収しつくされたか――そう疑念を抱くまでに、手応えのなさをラストは感じていた。 ならば――追撃のみ。 二手三手、宙を浮くクレアに容赦なく連撃を加えていくラスト。 あるいは背面、あるいは甲、あるいは肘。 体を崩す一手から始まり、全身が弾け飛んでもおかしくない猛撃が、クレアを叩きのめす。 そして――最初の一撃から数えて、二十三回目の攻撃がクレアを吹き飛ばし――ラストはその身体を追うのを止めた。 「……打撃が効かない、というのは……本当らしいな」 空中に舞い上がったクレアに対して紡がれた言葉。 聞こえているとは思っていなかったが、当の青年は軽々と着地し、余裕の表情を浮かべていた。 「その通りだ。あまり、つまらない事はしない方が良い。足場を不安定にさせたかっただけなら、それこそ無意味な事だ」 血の一滴どころか、痣一つ残さないクレアは、闘技場を見渡す。 今までラストが造った亀裂は、いつの間にか新品同様に無くなっていた。
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