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そして、僅かな頬の紅潮。青年に掴まれた腕を見つめ、その力に抗わずに座り直すサーミャ。
だが、青年の方は大して気にしていないのか、無言でカップに唇をつけている。
暫くの沈黙。
己の鼓動が相手に聞こえている気がして、サーミャは嫌いではない沈黙を敢えて破る事にした。
「そういえば、久しぶりね。こうして二人になるのも」
「ああ、お前、ランドに入ったもんな。どうよ、半分仕事とはいえ、楽しいんじゃないか?」
「……まぁ、同年代の方と交流を深めるのは悪い事ではないわ。生徒会長さんとも話せるし」
「ハハッ、緊張しすぎてアワアワ言ってたんだって? クッ、カハハ、怖かったんか? ハハハハハ!」
――……失敗した。
足をバタバタと動かし、腹を抱えて転がる青年を前に、呆れよりも恥辱の感情に苛まれてしまう。
自分でも、あの失態は思い出したくないものだった。
初めて生徒会長の前に立った時、緊張していたのは確かだ。ランドに入学する前も何度か出会いはしていたが、纏う空気の違いに面喰らってしまったのである。
しかし、もう三ヶ月も前の話だと言うのに、どうしてこうも笑えるのだろう。
涙すら浮かべる青年に、次第に怒りの感情が芽生え始めるサーミャ。
一発顔面に拳でも叩き込もうと、予備動作なしで距離を詰め――
ふわりとした、浮遊感。直後に、自分の身体が青年に抱き抱えられている事に気がついた。
恐らく、自分が距離を詰めた瞬間――彼もまた自分との距離を詰めたのだろう。
先程の一瞬の浮遊感は、勢いを利用されて自分が投げられた為に生まれたものか。
「魔法はともかく、体術じゃ敵わないんだから止めときなさい。サーミャちゃん」
「……む」
「悪かったって。でも、お前だって俺が同じ風になったら笑うだろ?」
幼子が親の膝の上に座るような体勢にされているせいか、サーミャも怒るに怒れない。
だが、彼女の安寧は長く続かなかった。
顔を真っ赤に染めたサーミャが扉の方に視線を向けたのは、単なる偶然である。
いくら色恋の最中にいるとはいえ、凡人の気配を扉越しに感じれない程、彼女は間抜けでない。
つまり、扉越しで透視を――あるいはサーミャ達の様子をニヤニヤと窓から見つめていたのは、
「……何をしてるんですか、皆さん」
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