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同日 グラバラス 中央区
ランドから十数キロ離れた区画に、燦々と太陽が地面を照り付ける。
人々や馬車、そして簡易な造りの二輪車が行き交う道路が石畳だったのは、もう数年前の事だった。
原油を精製したものに、砂を混ぜ合わせた物質で舗装された道路は、これまでとは比較出来ない利便さを誇っている。
未だに土で露になった道が散在する世界で、他国の人間達はこの道に揃って目を輝かせる程だ。
だが、それだけではない。
かつて、民家といえば煉瓦や木材で造られたものが多かったが、製鉄や建築の研究が進められた為、より強固なものへと変貌していた。
強さを取ってしまえば、何も残らない――そう揶揄された国は、技術的な面においても世界から数歩抜きん出たものとなっていた。
そんな栄華の象徴を見下ろしながら、キラキラと目を輝かせる青年が一人。
そこに普段の近寄りがたい雰囲気はなく、年相応のあどけなさを浮かばせている。
ラスト・アバズール。
既に有望な原石と呼ぶには相応しくない強さを持つラスト。だが、彼の出身は片田舎の集落であり、ましてやグラバラスの出身ですらない。
それだけに、眼下に広がる景色は、ラストにとって未知の領域であり夢の空間にしか見えなかった。
――すげぇ。
――やっぱり凄い……人間ってのは、一体どこまで進化するんだよ……。
選民思考に片寄りがちなラストではあるが、彼が忌み嫌っているのは『何もしない弱者』だ。
弱い事を盾に何もしない人間。力ある者に全てを投げ渡す無責任者。
挙げていけばキリは無いが――
例え力がなかろうと、芸術に才を伸ばす者は沢山いる。自分では想像もつかないアイデアで、人々の生活を向上させる者はいくらでもいる。
そうでなくとも、己の役割を見据える大人は数多と存在する。
その全ての人間に敬意を覚えながら、叡知の結晶をしみじみと――二十階はあろうかという建物の上から眺めるラスト。
「……こんな高い空間に足を付けてたのは、初めてだ」
燃えるような赤髪がはためくのも無視し、楽しげに笑う青年。
転移魔法で飛び立つ場合、群集のない空間へと移動するのは常識だ。
しかし、まだ十六といった若さで、ここまでの精度で転移できる才能は稀といえよう。
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