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その光景を最も信じられないという風に見ていたのは、他ならぬ特待生たちであった。
ランドでは、模擬戦が幾度となく行われている為、負傷した生徒の姿があるのは珍しくない。
それは特待生たちも例外ではなく、入学して三ヶ月だというのに休学した者すらいる程だ。
だが、今、自分たちの目の前で苦しげに呻いているのは誰だ? 何故、あのラスト・アバズールが、ここまでの怪我を負っている?
特待生たちは、机に伏せたラストに気遣ってか小さく囁きあう。
誰か心当たりがある者はいるか――そして、誰からというわけでもなく、みなが辿り着いた結論は――
――まさか、サーミャと酷い喧嘩でもしたか?
見れば、サーミャの机には彼女の姿がない。
彼女も特待生の中で、頭一つ抜きん出た実力を持つ猛者である。仮に、ランドの中でラストと張り合うとすれば、彼女か生徒会長だけであろう。
確たる証拠もないが、ランドという広いようで狭い世界で生きる彼らには、そこまでしか想像する事が出来なかった。もっとも、その推論は朧げながらも、性格に的を得ていたのだが。
ともあれ、当事者である筈のラストは、自分をこんな風にした犯人の想像すらつかずに、ただ激痛に眉をひそめる。だが、彼の表情に怒りはなく、寧ろ喜びの色すら浮かんでいた。
――……やってくれるね。
――挨拶代わりにしては重すぎる一撃だったけど……一つだけ教えてくれた。
――……まだまだ足元にも及ばないって事だ、たとえこの俺でも。
ランドに訪れた時、確かに持っていた期待感。結果として裏切られてしまったが、何の事はない。
こんな所は、まだ出発点ですら無かったのだ。
「随分な様ね」
己の駆け上がるべき階段の存在がいる事を、確かに見据え微笑むラスト。そんな時、頭上から投げかけられたのは、サーミャとも違う少女の声。
「……サロウか」
「貴方が負けたって聞いたから見にきたけど、本当らしいじゃない。似合ってるわよ、その情けない姿」
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