最果てで

2/2

241人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
楽しい。 私は楽しかった。 幸せを感じた。あの時、あの時は。そして今も……私はあの瞬間だけを幸せと感じれる。 でも、今にして思えば、いつかはあの時以上の昂りは感じていたんだと思う。 それが怒りでも。悲しみでも。愉悦でも。 でも、どうしてそれを感じたかは覚えていない。 でも、周りの眼が酷く歪んでいたのだけは覚えているわ。 もうそれだけ昔の事で、私の幸せもそんなに変わらない昔の事。 でも、私は覚えている。 私が私として幸せになった瞬間を。 え? どんな幸せだったかって? ……何故知りたいの? そもそも貴方は誰? ……何だか、とても懐かしい気がするわ。 ――……いいわ、話してあげる。気分がいいの、貴方が幸せの瞬間の……ふわふわした雰囲気に似てるから。 あの瞬間は……そうね。 この世界の始まり、あるいは終わりまで。それを凝縮した事で、生まれた奇跡なの。 ……わからない? クレア・フォーリス。レイ。ゲート・ファラモス。 この三人を引き裂いたソラ・ゴーゴンジャック。 そして世界最強の男。 ドラグ・フォーリス。 分からないかしら? この五人が……一つの時代に生きていた時代があったのよ? そんな奇跡があったからこそ生まれた、最高の奇跡。 誰か一人が欠けても世界は終わっていたし、誰か一人でもいれば世界は始まっていた。 その世界がどんなものなのかは、誰にとって良いものかは分からないけれどね。 ……嗚呼、そういえばもう一人だけいたわ。 それだけは。 その男だけは、別にいなくても良かった。 きっとその男がいなければ、他の人間がやっていたんでしょう。 その男にしか出来ない事なんて、あの幸福に至るまで……何一つとして無かったわ。 それでも……今の私が思い出せるのは。 あの五人以外で思い出せるのは、その時、その男がやったからなんでしょうね。 ――そう。 あの男の名は――…… ☆☆☆ ――……こんなに長く話したのは久しぶり。 ねぇ、また会って話したいわ。貴方と。 貴方はよく似てるから。私の幸福の瞬間に。 ……私は。 私はゼン。 完全。全てであり、全てでないもの。 私の外側である貴方に、私の話し相手になって欲しいの。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加