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楽しい。
私は楽しかった。
幸せを感じた。あの時、あの時は。そして今も……私はあの瞬間だけを幸せと感じれる。
でも、今にして思えば、いつかはあの時以上の昂りは感じていたんだと思う。
それが怒りでも。悲しみでも。愉悦でも。
でも、どうしてそれを感じたかは覚えていない。
でも、周りの眼が酷く歪んでいたのだけは覚えているわ。
もうそれだけ昔の事で、私の幸せもそんなに変わらない昔の事。
でも、私は覚えている。
私が私として幸せになった瞬間を。
え? どんな幸せだったかって?
……何故知りたいの? そもそも貴方は誰? ……何だか、とても懐かしい気がするわ。
――……いいわ、話してあげる。気分がいいの、貴方が幸せの瞬間の……ふわふわした雰囲気に似てるから。
あの瞬間は……そうね。
この世界の始まり、あるいは終わりまで。それを凝縮した事で、生まれた奇跡なの。
……わからない?
クレア・フォーリス。レイ。ゲート・ファラモス。
この三人を引き裂いたソラ・ゴーゴンジャック。
そして世界最強の男。
ドラグ・フォーリス。
分からないかしら?
この五人が……一つの時代に生きていた時代があったのよ?
そんな奇跡があったからこそ生まれた、最高の奇跡。
誰か一人が欠けても世界は終わっていたし、誰か一人でもいれば世界は始まっていた。
その世界がどんなものなのかは、誰にとって良いものかは分からないけれどね。
……嗚呼、そういえばもう一人だけいたわ。
それだけは。
その男だけは、別にいなくても良かった。
きっとその男がいなければ、他の人間がやっていたんでしょう。
その男にしか出来ない事なんて、あの幸福に至るまで……何一つとして無かったわ。
それでも……今の私が思い出せるのは。
あの五人以外で思い出せるのは、その時、その男がやったからなんでしょうね。
――そう。
あの男の名は――……
☆☆☆
――……こんなに長く話したのは久しぶり。
ねぇ、また会って話したいわ。貴方と。
貴方はよく似てるから。私の幸福の瞬間に。
……私は。
私はゼン。
完全。全てであり、全てでないもの。
私の外側である貴方に、私の話し相手になって欲しいの。
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