おいでよ、つわものどものらくえんへ

18/33

241人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
一ヶ月後 スタージャ そこは、多くの強者達が集う聖地。 顔面に三本の爪痕を走らせた、巨大な男。数多の呪符を装飾品のように付けた血色の悪い女。 更に、普通の青年や、年老いた老婆など、様々な空気を醸す人間が来訪している。 その数を合わせると、ゆうに五百人は超すと思われる状態なのだが、その空間は狭苦しさを全く感じさせない広大さを誇っていた。 中に足を踏み入れた多くの者達は、驚きを隠さずにこう口にするだろう。 本当にここは、あのスタージャの本拠地であるのかと。 銀と金。あらゆる宝石を散りばめた巨大なシャンデリアは、決して浮いたものではなく、その空気の一部として完全に溶け込んでいる。 三百メートルは続くと思われるエントランスには、真っ赤な絨毯が広がっており、ここが貴族の館ではないのかと錯覚させていた。 手すりや扉の一つ一つに施されている彫刻は、見る者に感嘆の息を吐かせてしまう。 美術館でも御目にかかれない、荘厳で神秘的な絵画の数々。 一点の曇りもない、磨き抜かれた巨大な鏡。 そのどれもが、見る者を魅了し、息を漏らさせる。 とある鬼の怒りに触れ、崩壊してから三年――スタージャはここまでの発展を遂げていた。 「……すげぇ」 そして、そうした荘厳な空間で、周りの人間と同じように息を漏らす青年が一人。 ラスト・アバズール。 彼は、ビルの上から街を見下ろしていた時以上の感動に、身を震わせていた。 ――何が凄いって、これを作ったのが、神とか天使とかじゃないって事だよな。 恐らく、巨大な魔物を前にしても、ここまでの震えは起きまい。 まだ、人外の存在が創ったといった方が、納得できる。 周囲の装飾を見渡しても、とても同じ人間が作ったとは思えないのだ。 ラストは目を輝かせながら、華美の限りを尽くしたシャンデリアを見つめ―――― 「おい、行くぞ」 「って」 こつり、と後頭部に衝撃を受ける。 それほど痛みが走った訳ではないが、思わぬ方向からの衝撃に体勢を崩すラスト。 「っとと……」 「最初に来た奴がそうなるのは分かるけどよ……俺は忙しいんだよ」
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加