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一ヶ月後 スタージャ
そこは、多くの強者達が集う聖地。
顔面に三本の爪痕を走らせた、巨大な男。数多の呪符を装飾品のように付けた血色の悪い女。
更に、普通の青年や、年老いた老婆など、様々な空気を醸す人間が来訪している。
その数を合わせると、ゆうに五百人は超すと思われる状態なのだが、その空間は狭苦しさを全く感じさせない広大さを誇っていた。
中に足を踏み入れた多くの者達は、驚きを隠さずにこう口にするだろう。
本当にここは、あのスタージャの本拠地であるのかと。
銀と金。あらゆる宝石を散りばめた巨大なシャンデリアは、決して浮いたものではなく、その空気の一部として完全に溶け込んでいる。
三百メートルは続くと思われるエントランスには、真っ赤な絨毯が広がっており、ここが貴族の館ではないのかと錯覚させていた。
手すりや扉の一つ一つに施されている彫刻は、見る者に感嘆の息を吐かせてしまう。
美術館でも御目にかかれない、荘厳で神秘的な絵画の数々。
一点の曇りもない、磨き抜かれた巨大な鏡。
そのどれもが、見る者を魅了し、息を漏らさせる。
とある鬼の怒りに触れ、崩壊してから三年――スタージャはここまでの発展を遂げていた。
「……すげぇ」
そして、そうした荘厳な空間で、周りの人間と同じように息を漏らす青年が一人。
ラスト・アバズール。
彼は、ビルの上から街を見下ろしていた時以上の感動に、身を震わせていた。
――何が凄いって、これを作ったのが、神とか天使とかじゃないって事だよな。
恐らく、巨大な魔物を前にしても、ここまでの震えは起きまい。
まだ、人外の存在が創ったといった方が、納得できる。
周囲の装飾を見渡しても、とても同じ人間が作ったとは思えないのだ。
ラストは目を輝かせながら、華美の限りを尽くしたシャンデリアを見つめ――――
「おい、行くぞ」
「って」
こつり、と後頭部に衝撃を受ける。
それほど痛みが走った訳ではないが、思わぬ方向からの衝撃に体勢を崩すラスト。
「っとと……」
「最初に来た奴がそうなるのは分かるけどよ……俺は忙しいんだよ」
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