おいでよ、つわものどものらくえんへ

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「不運な事故に遭いたくない? だったら止めときな、スタージャなんてのはな、その存在が不運な事故みたいなもんだ」 「俺のは……偶発的な事故だったんでしょう? それとこれとは……話が別な筈です」 「くく……だったら、アレが俺の故意だったとしたらどうするんだ?」 意地悪な口調で問いかけられ、しばらく沈黙するラスト。 怒りが生まれた訳ではない。こんなものは、ただの挑発に過ぎないと分かっている。 だが、ラストはこうも考える。これは挑発でもあり、試されてもいるのだと。 ならば、答えは一つ。敢えて乗るだけだ。 「だったら、アンタを倒すだけです」 「ハハッ、そりゃあ良い。やってみろよ、段階を踏んだらな」 そう言って立ち止まる『遺伝子』は、目の前の扉に親指を向けた。 もう大分歩いたが、豪奢な廊下の造りは変わらない。 しかし、その扉から発せられる威圧は――先程の受付からは決して感じられないものだった。 この扉の先から生まれるものではない。言うなれば、この部屋が積み重ねた業であろうか。 数多の命が天秤に量られ、そして終わらせられてきた――処刑場の様な空気。 「この部屋が受付からこんなに離れている理由……知ってるか?」 「……いえ」 「ここは人の命を扱う場所だからだ。殺人、護衛、捕縛、鎮圧、解放……その依頼を受けられるのは、スタージャでもAランク以上に位置する奴等しか受けられない。要はある程度、信頼と力が無ければ……ここに立つ事すら出来ないって話だな」 「何故、俺をここに?」 当然と言えば当然の疑問である。今日、ラストが『遺伝子』に頼んだのは、スタージャへと安全に案内してもらう――それだけなのだから。 その問い掛けに、『遺伝子』は小さく笑った。まるでラストを小馬鹿にするように。 「スタージャを知りたかったんだろ?」 「……」 「普通なら、あんな怪我負ったら……もっと負の感情が目に浮かぶ筈だぜ? だが、あの時のお前は……喜んでるようにしか見えなかったよ」 "ここ"が想像もつかない怪物が揃った世界なんだ――って感じでな。 そう言いながら、『遺伝子』は扉を開ける。 ラストの人生を変える、一つの分岐点となる扉を。 「ようこそ、強者達の楽園へ」 ☆☆☆
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