おいでよ、つわものどものらくえんへ

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室内に足を踏み入れたラストが最初に感じたのは、妙な違和感だった。 部屋を覆う温もりのある照明や、きらびやかな装飾を象った壁などは相変わらずである。 その中央には、巨大な机と、書類の山が所狭しと並んでいた。 一見すると、どこぞの貴族の執務室のように見える一角だ。しかしながら、この部屋に感じる違和感が、そんなまともなものでないと理解させる。 ――……誰もいない? 本来ならば、机に向き合っているであろう人間がいない。 しかし、それは違和感の正体でない事は、ラストには理解できる。 誰もいない筈の空間。 その認識自体、何か根本的な事を見落としているような――強い警戒感がラストの脳内に警鐘を鳴らす。 ――……さて、どういう話だ? ――うまい話だとは思ったが、俺を始末する気か? 当然、それなりの準備をしてきたが……。 仮にここで戦いが起きた場合、どう位置取るか、何が使えるのか――息を呑みながらラストは一歩後ずさる。そして―― 「ん……?」 壁を背にする為、手を置いた筈なのだが――何か柔らかいものを掴んでいる気がする。 その正体を察知するよりも早く、ラストはそこから跳び上がった。 全身のバネを使った跳躍は、そのままラストの身体を巨大な机の裏側へと容易に運ぶ。 「――――シッ」 そこからの行動は速かった。 ラストは、ダン、と床を強く踏み込む。床を踏み抜きそうな勢いだったが、寧ろその力を受けたのは、部屋に置かれた机。 いや、机だけではない。 何故なら、百キロはあろうかという机以外にも――椅子や巨大な本棚すらも、"浮いた"のだから。 下半身にかけた体重。 全身に光のごとく駆け巡る魔力。そこから生まれた膂力は、ラストの上半身へと推移し―― 体当たりの形で、机へと激突するラスト。巨大な砲弾と化した机は、先程の違和感があった空間に吸い込まれていく。 一瞬の静寂の後に響いたのは、部屋を破壊した轟音。 もしも違和感の正体がそこにいたのならば、今の一撃で死んでいてもおかしくはない。 死んでいなければ、おかしい。
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