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「レンちゃん?」
「ああ、『遺伝子』の事ね……って、あら……名前も聞いてなかったの。私、失敗しちゃったかしら」
――……嘘、だな。
舌を出しながら自分を小突く女に、わざとらしさを感じない男は馬鹿だ。
そうでなくとも、この女が嘘を吐いているのは見抜ける。ならば、この女は――
――『遺伝子』が俺に名前を伝えていない事を……知っていた。
――レンちゃん、なんてのが本名かどうかは分からないが……重要なのはコイツが俺に嘘を吐いているという事だ。
「ほらほら、お出でなさい。ちゃんと受付としての仕事はするわ」
「信用できない」
「あら? 何で?」
ヒラヒラと手招きする女は、心底不思議そうに首を傾げた。
「まず、俺がこの部屋を荒らしたというのに、お前は何の言及もしない」
「そんなの私が驚かせちゃったからでしょう? これくらいの事、ここじゃあ日常茶飯事よ」
「『遺伝子』が俺に名前を伏せている事を、お前は知っていた。だのに、それを知らないフリをしたんだぞ……初対面で嘘を吐く人間を信用する人間がどこにいる?」
「疑い深いのねぇ」
鋭い目で自分を見据えるラストに苦笑しながら、女はどうしたものかと視線を逸らす。
ここからの信用の挽回は難しいだろう。だが、彼女からすれば――実はそんな事はどうでもいい話だった。
「じゃあ、帰ったらどう?」
「……な!」
「別に、貴方にしかできない仕事なんてないんだから」
二人の認識の違いはここにある。
ラストからすれば、女は倒すべき敵と認識されているのだが――彼女からすれば、ラストはほんの少し特別扱いすればいいだけの客でしかない。しかし、本人が乗り気でないのなら、彼に帰ってもらっても困ることなどないのだ。
当然、ラストからすればたまったものではない。まさか、そんな風に返されるなど思いもしなかったのだから。
「お、おい……!」
「何か勘違いしてないかしら? レンちゃんに頼まれたから、私はここにいるのであって、貴方が私を信用しないのなら……帰ってもらって構わないのよ。レンちゃんにもそう言っておくわ」
「お前が嘘を吐くのが悪いんだろ!」
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