おいでよ、つわものどものらくえんへ

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「嘘?」 「とぼけんじゃねぇ、お前は、『遺伝子』が俺に名前を伏せていた事を知ってただろうが! 何か隠してるとしか思えないんだよ!」 「ふぅん……嘘だったの? 私が言ったこと」 ――……こ、の、アマ! 思わず激昂しかけるラスト。だが、それを遮るように、女は細い指を自分の唇の前に持っていく。 「怒らないの……私は貴方に教えてあげた、だけ。確かにレンちゃんからは、余計な事を言うなって言われていたわ……でも、それじゃあ可哀相じゃない」 「……何がだ?」 「右も左も分からない子が、いきなりこんな所に連れてこられて……連れてきた人の名前くらい知っても罰は当たらないわ」 「……」 「それに、私、仕事はちゃんとやる方なの。貴方がここで仕事を望まないのなら帰ればいいし、そうでないなら……紹介するわよ」 既に女はラストから視線を外し、散らばった書類を掻き集めていた。 これなら、ラストが最短で距離を詰めれば女は対応出来ないだろう。そうでなくとも、確実にラストに分がある勝負となるはずだ。 攻めるか、応じるか―― 選択肢は二つに一つ。一瞬の逡巡。ラストはようやく全身に漲らせていた魔力を解き、軽く頭を下げる。 「ラスト・アバズールだ……スタージャを知りたくて、成り行きでだが『遺伝子』から紹介してもらった」 「ふふ、素直ね……私は、ラン・メイアン」 ランと名乗った美女は、ラストへと向かい直ると、先程までとは違う真剣な眼差しで見据える。 その眼差しからは、受付嬢としての品定めのような色と――ほんの僅かな、哀愁が醸し出されていた。 「貴方は……スタージャで何になりたいの?」 「勿論、一番だ」 「……素敵ね、本当に」 「……?」 ランの口調と視線の意味が分からず、首を傾げるラスト。 しかし、推測するとすれば、どこかで彼女は同じような問い掛けを誰かにしたのだろう。そして、その誰かは――もうこの世界にはいないのかもしれない。 ――まぁ、確かめる必要もないし、そんな事はどうでもいいか。 ラストはランと同じように、散らばった書類の山を片付ける。 書類の中には、ラストのような田舎者ですら聞いたことのあるような、大犯罪者の名前が記されているものもあった。
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