おいでよ、つわものどものらくえんへ

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「本当に……やってるんだな」 だが、大犯罪者の名前が書かれた書類にあるのは、捕縛や殺しの文面ではなく――護衛。 真っ当な組織ならば、こんな屑を野放しにしておく訳がない。ましてや、護衛などするものか。 様々な感情を内に秘め、噛み締めるようにして呟くラスト。 対し、ランは微笑を湛えながら、受付嬢としての言葉を返した。 「ソイツの護衛は止めておくことね」 「やっぱり、性根が腐るってか?」 「というよりも、貴方が求めているものとはかけ離れているわ。それは、単純にお金を稼ぐのに向いてるの。貴方は強さを求めているんでしょう? ……後、依頼内容をよく見なさい」 そう言われ、再度ラストが書類に目を落とすと――成程、確かにこれは自分には向いていないらしい。何しろ、女性限定などという、腐りきった文面が添えられているのだから。 「……コイツを殺す依頼はきてないのか?」 「うーん、色々と契約があるのよ。仮に、その契約期間をソイツが延長しなければ、一瞬で誰かに殺されちゃうんじゃないの?」 ラン曰く、護衛の依頼の契約料は、年々増加されていくものらしい。スタージャへと支払う護衛料のせいで、滅んでいってしまった犯罪組織は両手の指ではきかないとか。 「上手くできているんだな」 「慈善でやっている訳じゃあないのよ。それに、命を狙われる心当たりのある人間からすれば、安眠は何にも替え難いものなんでしょう」 他にも、殺しや奴隷売買の護衛、中には誘拐の依頼などもある。 そのどれもに、下衆な願望や人間の欲望が込められているのがよく分かったが――ふとラストの手が止まった。 誘拐の依頼。これだけなら、他にも大量にある。それでもラストが手を止めたのは、そこに見慣れない記号が記されていたからだった。 「……Xランク?」 確か、スタージャにはSランクまでしか無い筈だ。それだけでも、怪物の中の怪物として崇められ、恐れられているのが現状だが、そんなランクがあるなどと聞いたことはない。 しかも、よくよく見てみれば、依頼内容も抽象的過ぎてラストには全く理解できなかった。 ――『天使』の誘拐って、何だそりゃ?
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