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依頼 誘拐
対象 『天使』
嗚呼、一体どうしてこんな事になった?
誰が……誰のせいで、こんな世界が俺を包み込む? ……大丈夫だ、俺は大丈夫。
確かに世間は俺を異常者と蔑み、極寒の大地が振るう吹雪のような凍てつきに俺の心を晒すのだろう……。
だが、そんな事はどうでもいい……何故なら、俺の心には寄り添う天使がいるからだ。
そう、天使……嗚呼、クソ! 畜生……どうして天使は俺の心にしかいない?! 俺の心を暖めてくれるのは天使以外誰も存在しないのは確かだが、ならば俺の身体を温めてくれるのは誰だ?
全然大丈夫じゃないぞ? 心が冷たければ、それは不幸で悲哀が生まれるというものだが、俺はもう充分に心は潤っている……潤う? 待て、温まっているはずなのに濡れているとはどういう事だ? つまり、俺の心は冷え切っていて、凍り付いていた……?
まさか、その氷を溶かしてくれたのが……天使?
何てことだ、嗚呼、素晴らしい……天使は俺の冷え切った心を――――
「……コイツ、本物だな」
Xランクなどというもの珍しさから読んでいたラストであったが、その文の内容に眩暈がしてくる。
本当に頭が狂っているとしか思えないのは内容もそうだが、こんな戯言がびっしりと隙間なく紙面に埋め尽くしている。
後半は最早、その天使なる人物の魅力が綴られているだけとなっており、あるだけ無駄なものと判断するラスト。
「……ランさん、Xランクって、頭が狂った人間用のランクなのか?」
「そうねぇ、そうなのかもしれないわねぇ」
「これを俺が受けるとしたら……どうなる?」
やけにもったいぶった言い方をするランに対し、ラストは違和感を覚えながらも尋ねる。
が、ラストは軽い調子で尋ねた事を、瞬時に後悔する事となった。何故なら、目の前のランの醸す空気が――全く別のものとなったからだ。
「Xランクは、今のところ、三つしかないわ」
声音に変わりはない。表情にも変化はない。
それでもラストは錯覚する。これが、今まで話していた女性と同一人物なのかと。鬼か悪魔の類だったのではないかと――
「一つは『天使』の誘拐。一つは『喜笑』の完全抹殺……その領域に踏み込もうとするのは、少し早すぎるわ」
「……ああ、分かった」
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