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「……成程」
本来ならば、この領域にはもっと段階を踏んでくる筈だった。様々な不運と幸運が重なって自分はここにいるのだから、その立場を敢えて崩す必要はない。
「じゃあさ、監視者って奴は……当然俺たちよりも強い奴が付くんだよな?」
「そうね、そうでなければ意味はないわ」
「それって俺が選べるの?」
「……? 言っておくけれど、レンちゃんは高いわよ? それに、彼以外に知っている人間がいないでしょう?」
「いや、大丈夫だ……確認しただけだから。だったら、かなり強い奴にしてくれよ、殺されちまったら意味がないから」
「……???」
段々と、ラストの醸す雰囲気が変わっていくのが、ランにも分かった。
どちらかというと、ランがこの少年に抱いていた印象は、典型的な天才タイプに近い。
自分の才能に誇りを持ち、自惚れる人間はスタージャに星の数ほどいる。いや、ここの門を叩く者のほとんどが、最初はそういう人間なのだ。
それが何れ挫折し、膝を折り、絶望していく。井の中の蛙である事を知り、あるべき地位を知り、生きていく――そんな若者を見続けてきたランがラストにそう感じたのだから、間違いなかった――
だが、今のラストから感じるのは違う。
己の弱さを認める度量。利用できるものなら、何でも利用するような狡猾さ。まるで、自分の提案すらも、策略に組み込んでいかれるような錯覚すら覚えた。
――誰を付けるべきなのかしらね。
――レンちゃんでもいい……サーミャちゃんじゃあバレちゃうだろうし、エマラ君か……それとも……。
ラストの空気が変わったことにより、誰を監視者として付けるか思案するラン。
生半可な実力者では意味がない。該当者の取捨選択を脳内で行っている時、不意に部屋の扉が開かれた。
「話は聞かせてもらったよ」
それは、幼い声だった。まだ変声期もきていない、甲高い子供特有の声に、ラストとランは揃って目を丸くさせる。しかし、両者の表情は同じでも、意味は全く違う。
ラストは、何でこんな所に小さな子供が――という意味で。
ランは、この怪物がどうしてここに――という意味で。
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