おいでよ、つわものどものらくえんへ

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扉から顔を覗かせた少年は、両者の視線を慣れたものだとばかりに受け流しながら、クスクスと嗤った。それは、気持ちの悪い笑顔だった。虫ケラが蠢いているような、背筋の凍る笑顔。 ――気持ち悪い顔をするガキだ。 まだ十代前半程度だろうか。この年齢でこんな笑顔を浮かべられるのは、相当な修羅場をくぐったか――性根が腐りきっているとしか考えられない。 他にも、金と黒のツートーンや、右目がある筈の部分に携えられた兎の眼帯が、気味の悪さを倍増させている。ラストは心中で悪態を吐きながらも、会話の前後の部分からこの少年が相当な実力者であると推測した。 それは、ランの警戒からも読み取れることだ。ランは、ラストに向けていた余裕を一切見せることなく、腰を低く構えながら少年を睨みつけた。 「……何か、用? 『喜笑』から随分逃げ回ったようだけど、こんな所に来て大丈夫なの?」 「うんうん、懐かしいなぁ……この歓迎されない感じ。僕はね、君を心配してあげたんだよ? ほら、机が壁にぶつかって大きな音でたでしょ……ランさんが犯されてるんじゃないかと思って、ずっと部屋の前で待機してたんだから」 「残念だけど、違うわね」 「そうみたいだね、でも……お兄さん? どうかな、僕なんか結構強いよ? ランカー入りはしてないけど、Sランカーでも殺せる実力はあるからさ」 いきなり話題を振られ、ラストはランと僅かに視線を交し合う。 一見すると、この少年は可愛らしい美少年といった体だが、粘つくような危険さは隠れていないのがラストでも分かる。 ランも了承する気配はない。ならば、答えは一つ。迷う必要すらなかった。 ラストは浅い溜息を吐くと、おもむろに少年へと手を差し出した。 「監視者役、よろしく頼む」 「ちょっと!!」 「……へぇ」 ラストは観念したように――ランは驚愕を露わにし、少年は面白そうに差し出された手を見つめる。 「いいの? いきなり出てきた僕みたいの信用して。お兄さん、ひょっとして馬鹿?」 「見くびるなよ……ここで俺が了承しなくても、当日に来るのがランさんが用意した奴じゃなくて……お前になってるだろ?」
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