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「あー……、本当に。本当に本当に、本当にどうしたもんかな」
「……さぁ」
決して狭いわけではない空間に不思議と響く、二つの声。
まるでどこぞの聖堂と思わせる、豪奢な柱に支えられた廊下。だが、そこを歩く二人の格好は、聖職者とは似ても似つかないものだった。
心底困り果てているという体の青年が着込んでいるのは、厳粛な法衣という訳ではない。
純白の汚れ一つないカッターシャツ。そして、質の良いスラックス。
それだけを他人が見れば、祈りを捧げに来た富裕層だと思うのだろう。
だが、上品に見えるのは服だけであり、その着方に品があるとは言えなかった。
「……さぁ、じゃなくてよ。さぁ、じゃなくてな? 俺も特待生として呼ばれた時は舞い上がったさ。だけど、可笑しくないか? 何で一般の奴等よりも提出課題だの論文だのを出さなきゃいけないんだ?」
特待生。
眉を八の字に描く青年の口から放たれた言葉。
彼の言葉が正しいのなら、下手な貴族の館よりも美麗なこの廊下は学舎の一部という事になる。
何も知らない人間が聞けば卒倒しかねない事実だが、隣を歩む少女がそんな事を気に留める筈もなく、
「当たり前じゃない。一般生の倍率は高くて、その上、莫大な金額を学園に納めてるのよ。私たち特待生はそれがないだけ、上からも期待されてるの」
彼女もまた、自分がこの空間にいる事を何の疑問も持たずに淡々と呟く。
だが、青年はその反応が気に入らないのだろう。
「ハッ、一般ねぇ」
「……」
「ただただ机にかじりついて、魔法学の理論を頭に詰め込んだだけ。実践出来なきゃ、実戦をした事もない。ヒョロヒョロの身体でろくに動けもしない雑魚のせいで俺らのハードルが上がるなら、いっそ消えてもらいたいぜ」
自分の不満を吐き捨てるように言う青年。
言葉の内容は過激だったが、口調が軽いのは半ば冗談も混じっていたのだろう。
しかし、それを聞く少女は冷たい眼差しで隣の男を見据えていた。
「貴方といると私の品位も貶められそうね。失礼するわ」
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