玩具屋

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資料に目を通しても、『玩具屋』に何らかの特殊な力があるといった記述は見受けられない。 つまり、この男は、力と魔法――そして、己の知恵でここまで登り詰めてきたのだ。 単純に力に自信がある人間ならば、どうとでも転がす事ができる。魔法に重きを置いた人間を潰す方法なぞ、この世界には数多とある。 ――……だけど、毒……か。 ――俺は毒の知識は深くない……今からでも学ぶ事は出来るが、一朝一夕で極められるほど甘くはない……。 ――しかも、毒使いが厄介なのは……どういうタイプの人間か絞れないところにもある。 弱者。臆病者。サディスト。合理主義者。はたまた、数ある内の一つの戦法に過ぎない強者なのか―― その人間の性格が分かれば、自ずと傾向や対策も立てやすくなるが、こんな資料だけで分かる訳がない。本日何度目かという溜息を吐きながら、ラストは目を伏せる。 そんな時だった。 背後から机上にコトリと置かれる、小さなマグカップ。中は黒い液体で満たされており、鼻孔をくすぐる香りはそれがコーヒーであると理解させた。 だが、ラストはそんな事よりも、驚愕で目を見開く。何故なら、今この部屋にいるのは――自分だけの筈だったのだから。 「――――おまえ」 「精が出るわね……スタージャの依頼なんでしょう、それ?」 振り返ってみると、そこにいたのは片手にマグカップを持ったサロウだった。 背後にいたのがソラでない事に安堵しつつも、ラストは眉間に皺を寄せて問いただす。 「……何で、お前が俺の部屋にいて、コーヒー飲んでるんだよ」 「ノックはしたわ?」 「普通は出迎えられて入るもんだろうが……何しに来た」 「だって、ラスト……貴方、私を出迎えてくれないでしょう?」 爬虫類を彷彿とさせる瞳を細め、サロウはコーヒーをふぅふぅと冷ましながら口を付ける。 自身の問いに、何の答えも返していない少女に青筋を浮かべるラスト。 「何でいるのか聞いてんだろうが! しかも、どうやって入ったんだ!」 「錠開けくらい出来なきゃ、ランドの名が泣くわ。それ……可愛い後輩の体調を見にきたお姉さんにも見せてみなさい」
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