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――戦闘による毒の応用性は、扱いが上手ければ……魔力を消費する魔法よりも遥かに上だろう。
――では、何故、毒を扱う人間が少ないのか……それは、的確に相手へと毒を与える術があまりにも少ない為なんだが……。
針による毒は、達人相手ならば容易に防がれる。粉塵のようなものなら、爆風で消し飛ばされるのがオチだ。
多と多の戦いなら兎も角、一対一の戦闘において、現在では毒の有用性は低い。
それも、スタージャのランカー同士の戦いならば、尚更の事であろう。
――だけど『玩具屋』は毒使いとして、Sランク間近の傑物と名を馳せている……。
――……分かっていた事だが、普通に戦ったら万が一にも勝ち目はない……か。
――……普通にやれば、な。
資料を読みはじめてから、幾つもの策は浮かんでいた。だが、現実味を帯びないものもあれば、明らかにリスクが高すぎるものばかりだった。
たとえ、成功したところで、年月から生まれる経験の差で局面を覆される可能性もある。
思考を落ち着かせる為、机に向き直ったラストは――深く息を吐いた。
まるで、すぐさま重大な戦いに挑むかのように。
「……サロウ」
「んん?」
自分の肩に顔を乗せ、先が分かれた舌をチロチロと見せるサロウ。普段なら、即座に蹴り飛ばしているところだが、ラストは少女に優しく微笑みかけた。
「……なぁんか、嫌な笑いね……悪巧み?」
「よく分かったな、流石だぜ。流石すぎる、それでこそ俺の尊敬する、偉大なる先輩様だ」
「そういう時は、名前を呼んでくれないと……燃えないわ?」
「サロウ……偉大なる先輩様は、可愛い後輩の頼みは聞いてくれるものだよな?」
「……お望みは、何かしら?」
チロリと覗かせた舌で、厚めの唇をなぞるサロウ。薄く開かれた金色の瞳は、頬を僅かに紅潮させたラストを捉えて放さない。
対するラストは、僅かに潤んだ金色の瞳を熱く見つめ返す。そして、一瞬の覚悟を決めた彼の口から出た言葉は――――
「俺を――――」
☆☆☆
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