玩具屋

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三日後 玩具屋 グラバラスの中央区から幾ばくか離れた繁華街。点在する店からは、野次や喧騒が絶え間なく響いている。 郊外に位置する中では比較的人の通りが多い区画ではあるが、あまり治安がいい街であるとは言えない。 所狭しと敷き詰められた建築物の間に描かれた落書きの数が、その証拠だ。 そうした繁華街の一角にある、古ぼけた一件の店。 その店は、暴力の臭いを隠すことのない街の中でも、一際異様な空気を纏う。 まるで、その店自体が、人間の血を吸っているかのような――不穏な空気。 昼間だというのに、顔を赤らめた男たちが喧嘩をしている店でも、こんな空気を醸すことは出来ない。 街の人間も理解しているのであろう。 殴り合うようにして建てられた建築物が並ぶ区画だというのに、その古ぼけた店の周りには――何もない。 周囲から隔離された店――玩具屋。 そこの扉を叩く者は、限られている。あるいは強者。あるいは小物。 そして、その日『玩具屋』が叩かれた扉を開いた時、目にしたのはそのどれもに当てはまらない――赤髪の少年だった。 ☆☆☆ 「……君は」 「あの……『玩具屋』さんで、間違いない感じ……?」 その少年の第一印象は、明らかに弱々しいといったものだった。 短いとも長いともとれぬ、深紅の髪。まだ幼さが残るとはいえ、屈強といっても差し支えない身体付き。 何らかの武術をやっていると、一目で分かる体躯は勇ましさを誇っている。 だが、その両の目から感じ取れるのは――疲労。次いで、溢れ出す恐怖。青ざめた肌は、常人のそれとは明らかに違っていた。 「あの……今、いい……ですか?」 「……どうしたんだい? その顔、普通とは思えないが……」 「ちょっと……毒……ラミアに噛まれて……ここなら助けてくれるんじゃないかと……」 「…………」 『玩具屋』が少年に目を向けると、首筋には二つの痕があった。 牙を突き付けられたであろう、毒々しく腫れ上がった痕が。 「『玩具屋』さんって……毒で有名だって聞きました……だったら、毒を治す方法も知ってるんじゃないかって……」
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