玩具屋

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「無理することはない、すぐに動こうとしては駄目だよ」 そういって朗らかに笑う男――『玩具屋』。 巷で有名になっているような毒使いという印象は、彼を一目見れば消し飛ぶ。 優しげな笑みに似合わぬ屈強な肉体。背丈は百九十は越えているだろうか。 何も知らない人間が見れば、『玩具屋』は力で押し込むタイプであると認識するに違いない。 「……で、どうしたんだい? ラミアにやられるなんて……この辺りで襲われたのかな?」 少年よりも一回りは大きい身体を持つ『玩具屋』は、微笑を絶やさずに少年と向かい合うようにして座る。二人の前に置かれたコーヒーは、熱い湯気とともに鼻腔を強くくすぐった。 「え……っと、いやぁ、倒しに行ったら、見事やられたって感じですね。ちょっと腕試しみたいな」 「……君の年齢で? ラミアは個体差あれど、相当なものだと思うよ?」 「大丈夫……な筈だったんですけど……まぁ、俺、ランドで最強なんですよ」 「……え」 呆ける『玩具屋』を前にして、少年は満足そうに微笑む。自分の失態が無かったことにできた様な優越感を感じさせる――そんな笑み。 「だからね、この際だからスタージャのSランクに挑もうと思って……そしたら提示されたのが、Sランカーの『山吹大蛇』との戦闘でしょ? いやぁ、強かったですね」 『山吹大蛇』――聞いた名前だ。 スタージャのSランクでも中堅に位置する強者で、彼女の顎から逃れたものはいないという。 「ま、それでも……頑張ったんですけれど。七発くらい……ですけど入れましたよ。そしたら本気で噛み付かれて……命乞いしたら、ここに連れてきてもらったって話です」 少年は誇らしげに武勇伝を語ると、目の前のコーヒーを一口啜る。対する『玩具屋』は、それまでの優しげな笑みを消し、どこか虚ろな表情で問いかけた。 「す、凄いね……き、君の年齢で……僕なんかおじさんだけど、まだAランカーだよ……でも、ランドで最強……っていうのは? スタージャでSランクに挑んで負けたのなら、ランドにも君の上はいるんじゃないかな?」 「ハハッ、いる訳ないじゃないですか。たかが学生の集まりですよ? スタージャと比べる事すらおこがましい……もしかしたら、俺が歴代のランドの中でも最強なんじゃないかと思います」
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