一章 その男

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「いや、いやいや! 別に見下してるとかじゃなくて? 相対的に考えて可笑しくないか? って話だよ! 普通はさ、努力してきた奴等がやるもんだろ?」 少女の言葉に汗を飛ばす青年。 余程嫌われたくないのだろう。先刻までの口調とはうってかわって、媚びるような笑顔を向けている。 何とも情けない姿だったが、確かに少女の容姿から鑑みれば頷く点も多い。 まさに夢見る少女の理想を具現化したような、小さな顔立ち。童話の姫がそのまま飛び出してきた、と言われても信じるような美貌がそこにあった。 彼等と行き交う形で通り過ぎる生徒たちも、男女問わず彼女へと一度は視線を向けていく。 尤も、そこに羨望と嫉妬の違いはあるのだが。 しかし、少女はそんな視線をも受け流し――あるいは認識すらしていないのか、冷たい口調で続ける。 「訳が分からないわね」 「うーん……あのさ、やっぱりサーミャは気にしすぎだと思う訳よ。何て言うのかな、周りの気持ちとか?」 「それこそ理解出来ないのだけれど」 「周りの気持ち?」 「貴方の言った言葉よ……それと、軽々しく名前で呼ばないでくれない?」 刺々しい声音。 サーミャと呼ばれた少女の瞳に苛立ちの炎が浮かんだのを鋭敏に察し、青年は肩を震わせた。 「あ、すみません。本当に怖いから……でもさ、やっぱり逆だと思うんだよ。普通はさ、出来ない奴等に課題を多くするもんだろ? いくら期待してるからって、課題が多いってのはペナルティーでしかないじゃん」 「あの程度の課題、難なくこなすのが特待生でしょ」 「いや、何つーか……その共通認識が腹立たしいんだよ。常識を押し付けられてる感覚というか、強いんだから強い魔物と戦えー、弱いボクタチは弱い魔物とタタカイマスーって感覚、ハッキリウザいよな」 青年の語彙の無さから上手く伝わらないが、要は平等を求めているのだろう。 幼稚な思考。ふざけて言っているのならまだしも、隣の男から普段の軽い空気は見えなかった。 「……貴方より努力して貴方より弱い生徒に聞かせたら、拳が飛んできてもおかしくないわね」 「え? あぁ、言ったよ? この前、三人くらいに絡まれてさ」
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