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「…………ん?」
少年がおどけた調子で紡いだ言葉に、何かに浸るようにしていた『玩具屋』の顔付きが変わる。それに気付かない少年は、また一口喉潤わせる。
「正直つまらないんですよね……俺からしたら、同年代の人間なんて塵みたいなものですよ。やっぱり、本当の怪物ってのは学校みたいなところに通わないで、スタージャに直接行きますし」
「そう、かな?」
「少なくとも、俺はそう思ってます……俺も調べてみたんですよ、昔のランドの記録とか……やっぱり大したこと無いですね。今では輝かしい成功を成している人間も多いですが、才能は俺のほうが圧倒的にありますから……クク」
そこまで言って、何か思い出したのか――突然大笑いする少年。『玩具屋』はそれを冷めた目つきで見守り続けながら、席を立つ。
彼が向かったのはカウンター。そこにあったのは、数枚の紙片だった。
何かの指令書のような文が記された紙面に目を落とす『玩具屋』。そこに書かれていた名前は――ラスト・アバズール。男はそれを見つめながら、己の中の衝動を必死に沈めようと奮闘する。
だが――
「いやぁ、笑えましたね……ランドの最強とか、絶後の怪物だとか書かれた卒業生……もう見てて恥ずかしくなるくらいでしたよ、誰がこんな子どもの妄想みたいな事を書いてるんだって」
少年の笑い声が響く。脳内を揺らす。
そして、少年は――最後の言葉を吐いた。最後の境界線ともいうべきものを、己の足で踏み越えてしまった。
「確か……ドラグだったかな、そんなもの、俺の手にかかれば雑魚だったんじゃないですか……って?」
朗々と言葉を紡いでいた少年だったが、そこでその口が止まる。
『玩具屋』が強制的に口を噤ませた訳ではない。彼が投げ出した書類が、少年の前へと舞い落ちたからだ。
意味もわからずに『玩具屋』を見つめるが、男の眼差しは鋭く冷たい。この書類を見ろとでもいうのだろうか。
現状を理解できない。だが、少年が無言の圧力に耐え切れず、書類に目を通したとき――そこに信じがたいものが映りこんできた。
――……な!
そこに記されていたのは、ラスト・アバズールが『玩具屋』を襲撃する旨。
「おかしいと思わなかったのかい」
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