玩具屋

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静まり返った空間に感情の無い声が響き渡る。 「僕が君を招きいれた事、優しく介抱してあげた事」 先程までの優しげな口調はどこにもない。息苦しさを感じさせる重圧と、吐き気を催す死の臭いが充満した室内は、少年に言葉を発することを許さなかった。 「ラミアに噛まれた? いきなり現れた人間がそう言って、誰が信じる? たとえ真実だったとしても、僕はそんな人間は助けない……それはスタージャの人間も知ることだ」 「ぁ……ぁ」 「だから『山吹大蛇』がここに人間を連れてくる訳が無い。何より、僕は君がここに攻めてくるのを知っていたんだ……なんだ、その顔。スタージャに裏切られたと思ったかい? 当然だろう、スタージャは君だけの味方じゃあないんだ。討伐対象がスタージャ内の人間なら、その対象に通知がいくことも考えなかったのかい?」 ゆっくりと――それでいて確実に、少年へと迫る『玩具屋』。だが、少年は背中におぞましいものを感じながらも、一歩も動くことができずにいた。 それは、精神的な恐怖からくるもののせいだけではない。 四肢の自由が利かない――何らかの毒。与えられる隙は幾らでもあった。 注射、コーヒー。 この二つが最も可能性が高いだろう。しかし、脳内で考えることができた所で――少年に行動の選択肢はほとんどない。 「それとも、君はまさか……自分が物語の主人公か何かだと思っていたのかな。だから、世界は無条件に……自分の味方をしてくれていると思えたんだろうね。いやぁ、そうだきっとそうさ間違いないよだって君は僕の前で彼を侮辱したのだから」 『玩具屋』の焦点が定まらなくなりつつある。 今の彼を包んでいるのは、圧倒的な怒りと極度の興奮だった。怒りが生まれたのは、自分が神とまで崇拝する対象が侮辱されたからであり――若き才能を容易く潰せることへの興奮は、絶頂の域にまで達していた。 怒りと悦楽。その二つが怒涛の勢いで渦巻く様は、混沌と評するのが最も正しい。 だが、その混沌も長くは続かない――次の瞬間、さまざまな感情を全て吐き出すように、『玩具屋』の拳が少年の首を吹き飛ばしたからだ。 勢いよく吹き飛ばされた少年の首は、その勢いを殺さずに壁へと突き刺さる。 そして――それを契機に、玩具屋は眩い閃光に包まれた。 ☆☆☆
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