玩具屋

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不死――ではない。仮に不死と併用して細胞を爆弾に変えられるのならば、それほど恐ろしいことはないが、あの粉塵の中汚れ一つないというのは、あまりにも不自然だった。 「スタージャが俺だけの味方じゃない? 当然過ぎる話だ……そんな事をあんなに偉そうに口にするってのは、どうなんだ」 「どういう……事だ……?」 ならば、何故――ラストは店内の会話を知っているのか。 アレが精巧な傀儡で、会話も通していたとでもいうのだろうか。そんな魔法は聞いたこともない。 かつてスタージャに一人で喧嘩を売った『英雄』ならば、それも不可能ではない。だが、もしもラストにそんな力があったとするなら、自分に勝ちの目はない。 そして、何より致命的なのは、自分が保持する毒のほとんどが消滅してしまった事だった。 相手の能力は未知。スタージャから受け取った資料に詳しい事は書かれていなかった。 しかし、ラストは今――自分のほとんどの選択肢を削いでいる。故に、せめてもの時間稼ぎでもと『玩具屋』は少年へと疑問を投げかけたのだが、返ってきたのは容赦のない蹴りだった。 「――ぐ」 完全に回復しきっていない身体に打ち込まれた爪先は、『玩具屋』の肩口に深く食い込む。 が、絶叫をあげる暇はない。ラストが蹴りの勢いを殺さぬまま、男の顎を二段蹴りの要領で打ち抜いたからだ。 斧を振り下ろされたと錯覚するほどの鈍い音が響く。 宙を舞った『玩具屋』の身体。それを待ち受けるのは、一瞬早く着地に成功したラストの――掌底。 百キロ以上のものを浮かす勢いを持つ震脚から繰り出されたソレは、『玩具屋』の肋骨を粉々にするのに充分すぎる威力を誇っていた。 それでも連撃は止まらない。いや、止められない。 相手の回復を待ち、全力を出させる余裕が無いことをラスト自身がよく分かっていたからだ。 ラストの計画が一番上手くいっていたなら――もう勝負を付けていた所だった。 あの爆発が起きてから、ラストは直ぐにでも『玩具屋』を始末する算段を付けていた。 もしも、『玩具屋』の思考や五感のほとんどが奪われていた状態でなら、ここまで攻撃を加える必要はなかっただろう。
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