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ソレが出来なかったのは、爆風から生まれた有害な噴煙が邪魔したからだ。
可燃性の毒だけでなく、毒々しい色合いを持つ煙は――吸っただけで命を奪うものであろうと推測できた。
故に、ラストは歯噛みしながらも、煙が晴れるのを待つ事しか出来なかったのだ。それは同時に、『玩具屋』に体力を回復させる時間を与えたという事にもなる。
――だが、何も得られなかった訳じゃない。
繰り返される連撃の最中でも、ラストは思考を止めない。
ここまでの状況を造り上げたのが、自分の頭脳によるものだと理解していたからだ。逆に言えば、ここまでの状態を作れても――完全に自分に分があるのは、頭脳だけであるとも。
毒を使わせないように、店を爆破させた。だが、まだ完全に毒を使わないという確証はない。
全身に火傷を負わせ、今もこうして止まらぬ連打を打ち続けている。それでも、相手の方が力も経験も勝る。
魔力のほとんどを『玩具屋』は使っていない。しかし、自分は半分以上も消費している――
ならば、考えるという長所を生かさないなんて馬鹿馬鹿しい選択肢を、誰が選ぶものか。
――奴は、あの煙の中にいても堪えた様子はない。
――だったら、持ちえる毒の抗体……その全てを体内に入れているという事……つまり!
ちょうどその時、何度目かも分からない殴打を『玩具屋』の脇腹に突きこんだラスト。
もう息も絶え絶えという状態だったというのに加え、内臓が酷く損傷したせいで、おびただしい量の血液を吐くこととなった。
――この血液も、毒である可能性が非常に高い。
そこでようやくラストは『玩具屋』から距離を取る。尤も、自ら離れた訳ではなく――浮き上がった男の身体を勢いよく蹴り付けたのだが。
地面に叩きつけられた『玩具屋』は、その衝撃で僅かに溜めていた血を吐きださざるを得なかった。その行為がラストの推論を裏付ける大きな証拠となる。
あのまま攻撃を加え続ければ、ラストの顔面に血液が吹き掛けられていただろう。
――っっう……!!
――このガキ……心でも読めるのか?
『玩具屋』からすれば、絶好のタイミングをずらされたに等しい。
このような疑惑が浮き上がってもおかしくない、それだけ絶妙なタイミング。だが、ようやく――自分の手番が回ってきたのもまた事実だった。
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