玩具屋

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――……よく耐えた、僕。 『玩具屋』も、敢えて攻撃を受け続けていたつもりはない。 ラストがどうして無傷で生きているのかは分からないが、間違いないのは――素手での戦闘ならば確実にこちらに分がある事だ。 言うなれば、筋肉の質が違う。未だに身体の出来上がっていない十代の筋肉と、何十年も鍛錬と努力を積み重ねてきた筋肉の差は大きい。 『玩具屋』がああして手も出なかったのは、先刻の火傷による損傷のせいだ。だが、皮膚の事を差し引いたところで――ラストは肉弾戦で、自分に致命傷を与える事は出来ないだろう。 そして、『玩具屋』はこの状況を打破する毒を――今も持っている。 よろめきながら立ち上がった『玩具屋』を訝しむラスト。大したダメージがないのかと思ったが、そうではないらしい。重心を失ったかのように揺らめく様は、『玩具屋』に深い楔を打ったことを証明していた。 ならば、地に伏せたまま体力を回復していれば良かったのではないか。 そうすれば自分も罠を張れたのに――忌々しげに『玩具屋』を睨み付けていたラストだったが、ほぼ同時に気付く。 男の右手に当たる部分。そこに黒い影のようなものが蠢いているのを。 最初はようやく魔法を使うのかと警戒していたが、そこから取り出したもの――二つの小瓶を見て、ラストの全身から滝のような汗が流れ始める。 ――あの瓶……毒か? ――つまり、あの右手のは箱か……!  己の魔力の中に物を仕舞いこむ魔法――通称、箱。 明確な定義が成されていない魔法の一つであるが、個人の魔力量でその大きさの大小が決められる。 とはいえ、その箱も万能であるとはいえない。 まず、箱は己の魔力を糧にして造られるが――箱自体を解除したところで、その容量の魔力は返ってこないのだ。 その燃費の悪さから、習得する人間は時代の移り変わりとともに減っていた。 だが、『玩具屋』は違う。自身の長所を最大限に生かす為、己の魔力を割いてでも毒の予備を持ち得ていたのだ。
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