241人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
――……よく耐えた、僕。
『玩具屋』も、敢えて攻撃を受け続けていたつもりはない。
ラストがどうして無傷で生きているのかは分からないが、間違いないのは――素手での戦闘ならば確実にこちらに分がある事だ。
言うなれば、筋肉の質が違う。未だに身体の出来上がっていない十代の筋肉と、何十年も鍛錬と努力を積み重ねてきた筋肉の差は大きい。
『玩具屋』がああして手も出なかったのは、先刻の火傷による損傷のせいだ。だが、皮膚の事を差し引いたところで――ラストは肉弾戦で、自分に致命傷を与える事は出来ないだろう。
そして、『玩具屋』はこの状況を打破する毒を――今も持っている。
よろめきながら立ち上がった『玩具屋』を訝しむラスト。大したダメージがないのかと思ったが、そうではないらしい。重心を失ったかのように揺らめく様は、『玩具屋』に深い楔を打ったことを証明していた。
ならば、地に伏せたまま体力を回復していれば良かったのではないか。
そうすれば自分も罠を張れたのに――忌々しげに『玩具屋』を睨み付けていたラストだったが、ほぼ同時に気付く。
男の右手に当たる部分。そこに黒い影のようなものが蠢いているのを。
最初はようやく魔法を使うのかと警戒していたが、そこから取り出したもの――二つの小瓶を見て、ラストの全身から滝のような汗が流れ始める。
――あの瓶……毒か?
――つまり、あの右手のは箱か……!
己の魔力の中に物を仕舞いこむ魔法――通称、箱。
明確な定義が成されていない魔法の一つであるが、個人の魔力量でその大きさの大小が決められる。
とはいえ、その箱も万能であるとはいえない。
まず、箱は己の魔力を糧にして造られるが――箱自体を解除したところで、その容量の魔力は返ってこないのだ。
その燃費の悪さから、習得する人間は時代の移り変わりとともに減っていた。
だが、『玩具屋』は違う。自身の長所を最大限に生かす為、己の魔力を割いてでも毒の予備を持ち得ていたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!