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そして、『玩具屋』が取り出した小瓶は二つ――それが何を意味するのか。
――複合してより強い毒を生み出すのか。
否。ラストはそれを心中で否定する。
自分はただの人間であるのだ。それを相手にするのに、みすみす手の内を晒す必要はない。
ならば、予備か。
確かに毒が向かい合った戦闘で使われにくいのは、まず毒を与える術自体が限られているからである。
それでも、弾幕のように幾重にも使われては、こちらからは攻めも守りも満足にできはしない。
だからこそ、ラストは最初に『玩具屋』の店を破壊したのだ。
だが、最も可能性が高いのは――――
――あの内の片方が、自分の体内に抗体を自力で造れないほどの猛毒……。
――そして、もう片方が……それの血清……か?
断定するのは危険すぎるが、ラストは自分ならばそうすると考える。
広範囲の毒をばら蒔くつもりなら、使用者自身がそれに巻き込まれてはならない。
故に、広範囲に広がる毒を使用することが相手に察知されてしまうのだが、その血清があるのなら話は別だ。
接近戦に持ち込まれれば、被弾は必至。恐らく『玩具屋』の肋骨は数本砕かれているが、それでも今の状態では逃げ切れる絶対の自信はない。
互いの間に走るのは、極度の緊張。『玩具屋』も理解している。自分が小瓶の中身を摂取する隙こそが、命取りになると。
それは、ラストも同様だ。その隙を逃せば『玩具屋』に与えたダメージの優位性は消え、ジリジリと追い詰められる事になるだろう。
この戦いは、美しいとまでいえる構図になっていた。
策謀を駆使し、自分よりも強い怪物を追い詰めている弱者。
翻弄されながらも、自身の特性の厄介さを誰よりも信じ戦う強者。
いつしか『玩具屋』の脳裏には、自分の神を侮辱したラストの姿は霧散していた。
この少年は、ここまで戦えるのだ。そして、その才能は――これからも伸びていくに違いない。
――……その才能を、ここで消せるなんて……僕はなんて幸福者か。
――君は、君ほどの男が、僕の人生の糧となる……だから、この最期の戦い、どうか楽しんでくれ。
最高の悦楽が感情を支配する。この少年を殺した後、どれだけの多幸感を得られるだろう。
だからこそ『玩具屋』はラストが吐いた言葉が信じられなかった。
「もう、止めにしようぜ」
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