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「……え」
呆けたように呟く『玩具屋』。そして、その一瞬。この気の緩みは明らかな隙となった。
不味い、と感じる間もない。男は来るべき攻撃に備え、刹那の間に幾重にも連なる攻防を描いたのだが――ラストは一歩たりとも距離を詰めようとはしていなかった。
それは、彼の言葉が何の偽りもないことを証明している。
「ふ、ふざ……ふざけるな!! テメェ、何のつもりだぁ!!」
堪らず激昂する『玩具屋』に、ラストはやれやれといった調子で肩を落とす。まるで、出来の悪い子どもを持った親のように。
「いや……何で分からないんだ? お前は俺を殺したら死ぬんだぜ? だから、もう止めにしよう……って、言ってるんだ」
「ハァ?」
「……ったく」
怒り収まらぬといった調子の『玩具屋』だが、彼の怒りも尤もだ。寧ろ、ここまでの殺しあいを演じてきたというのに、それを中断しようなぞ――聞き入れる人間の方が少ないだろう。
ラストは、そうした感情を理解できない男ではない。種明かしをする手品師のように、少年はゆっくりと自身の背後に指を向けた。
「最初、お前の店に入ったのは……偽物だ。まぁ、言ってしまえば、アイツなんだよ」
その言葉に『玩具屋』はいやでも視線を向けざるをえない。
この戦いの火蓋であったアレは――今考えても、異常な存在だったのだから。
ソレの存在が確定するのは『玩具屋』にとって利益にしかならない。
しかし、ラストの指が向いた先――小高い家屋の屋根の上からこちらを見つめる少年の姿を見た時、利益は利益ではなくなった。
――アレは……!!
――『虚飾』……ヌル!
三年前、数多の犠牲を出した悪意との戦いで、相手方の中核を担った少年。
聞くところによれば、その少年はこちらに鞍替えし、王族の暗部として働いているそうではないか。
その少年が何故ここに? いや、それよりも――ラストは先程なんて言った? まさか、あの『虚飾』が最初に来た赤髪の少年だったと言ったのか?
「アレは俺の監視者だが……同時に、俺が依頼した任務も忠実に行ってくれたぜ」
「な、何を……」
「お前の店の中で数分話せば良いって……ただ、それだけの依頼だ。まぁ、どこかの誰かさんが早とちりして攻撃しなければ、アイツに恨まれる事も無かっただろうな」
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