玩具屋

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ラストが吐いた虚言。 それを嘘であると理解できる者が、一体どれだけ存在するだろうか。 最初に『玩具屋』の元へ訪れた存在が、ヌルではないということを。 それがヌルでないのなら――殺しあいが終結した時、生き残った方を殺す訳がないということを。 そして、ヌルを止めるため『喜笑』を呼んでいないという真実を――果たして、誰が看破するだろう。 ラストは、ここにきて即興のハッタリを並べ立てたつもりはない。全て、彼がスタージャで依頼を受けた時から、この絵図は完成していたのだから。 受付嬢のラン・メイアンは言った――『虚飾』なる少年が『喜笑』という存在に追われていると。 そして『喜笑』なる存在は、Xランクなどというふざけた位置に君臨する化物であるとも。 それらを繋ぎあわせれば、彼等二人の関係が最悪だというのも見えてくる。だが、ラストがその情報を決め手の一つとしたのは、また違う観点からくるものだった。 肝心なのは、ただの受付嬢でもそういった事実を知っているという点だった。 仮に、自分のようにスタージャへの造詣が深くない者を相手にしたら、この情報の価値は無となる。 それでも――『玩具屋』は違う。 『虚飾』の存在を認め、冷や汗を滝のように流した。つまり、あの少年の強さを知っている――ひいては『喜笑』の存在も知っていることに繋がるだろう。 下手な事を溢さぬよう、ラストが多くを語らなかったのも吉となった。 それだけで『玩具屋』の脳内には、最悪の想像だけが膨れ上がっていくのだから。 ――ソラ……お前が"ただ傍観するだけ"の存在でいてくれて、良かったぜ。 もしも監視者が自分を助けそうな素振りを少しでも見せたなら、この嘘は相手への枷ではなくなる。 そうなれば『玩具屋』は、躊躇なく自分を殺しにかかるだろう。 それでは駄目なのだ。そうなってしまえば、自分が本当に生き残れるかは――監視者に委ねばならなくなってしまう。 ――俺は自分のできる事を、最大限にする。 ――たとえ、周囲の環境を使い……自分の力だけではないと罵られたとしても。 ――それは、強さにばかり依存してきた人間の……弱さだ。
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