一章 その男

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その一言だけで、サーミャは気付く。 自分の横にいる男が、何の感情も表に出すことなく相手を沈めたのだと。 強さからくる驕りか、弱者に対しての苛立ちからくるものか。サーミャの知る限り、隣の男は自分と拮抗しない者に驚くほど容赦が無い事を知っていた。 そして、この学園に彼の眼鏡に適うものがほとんどいない事も。 「口だけの奴等しかいなくて困るぜ、本当に」 青年もサーミャが察したことに気付いたのだろうが、事も無げに紡ぎ続けていく。だが、苛立ち混じりの口調とは裏腹に、どこか寂寞とした色を面に浮かべながら―― 「ランドがこんなにつまらない場所だとはよ……」 ☆☆☆ ランド。 それは、この世界で頂点を目指すものにとっての登竜門であり、通過点でもある最高の教育機関。 表舞台、裏舞台問わず、一定の水準を超える力を持つ者のほとんどはここの卒業生であるという話は、最早常識の一つである。例に挙げるなら、三年程前――世界戦争を終わらせた一人の少年がここに在籍していた。 それだけではない。 世界最強として名を馳せた男。神の力を宿した教師。 魑魅魍魎を前にして、それらをひれ伏せさせた少女。 過去に輩出された怪物を挙げればキリは無いが、それぞれが世界を平穏に導き、また同時に、恐れさせたのは言うまでも無いだろう。 今では、一国の教育機関に過ぎなかったランドは、世界の優秀な若者を育て上げる巨大な組織として君臨していた。 ランドは最早グラバラスに対抗出来る――管理していた筈の国をも超えるのでは、と噂されるランド。そのランドが誇る特待生の中で、最も突出した才能を持つといわれているのが、サーミャの隣で表情をコロコロと変える青年。 ラスト・アバズール 無造作に乱れた真っ赤な髪。不細工ではないが、整った顔立ちとも言えない平凡な顔つきは、それだけなら周囲に注目される類のものとは思えない。 しかし、彼の冷たい眼差しと内から滲み出る威圧感は、確かにラストという青年がまだ若い身の上でありながら、強者であるという事を証明する。
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