玩具屋

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自身よりも圧倒的な力と経験、そして毒という戦略を身に付けた男を鋭く睨むラスト。 気付くだろうか。最後にに残された道を、あの男は至るだろうか。 至ったのならば――――その時は。 ――その時を……待て。 ラストの視線を受けながら『玩具屋』の心の中に浮かんだ言葉がそれだった。 意外にも、彼はもう絶望に囚われてなどいない。 それは経験によるものか。それとも、ある種の開き直りが生み出したものか。 いや、違う。 彼が袋小路に追い詰められても尚、活路を見出だせたのは――『玩具屋』自身が成した努力によるものだった。 ずっと才能を追い続けてきた半生。二十年以上も追い続け、焦がれてきても――遂に届かなかった領域。 そこに行けなかった絶望が、彼を狂わせたのは間違いない。 それでも、そこまでの道のりは、決して無駄なものでは無い。 そして、ラストは一つ――思い違いをしている。 彼が取り出した小瓶は二つ。その内の両方は――どちらも致死性の毒ではない。 片方は、速効性はあるが全身の自由を奪うだけの痺れ薬。最初に『虚飾』と思わしき存在の自由を奪ったのは、この薬によるものだ。 だからこそ、赤髪の少年はコーヒーを躊躇なく飲んだのではないか。 あの時『玩具屋』は、薬棚に向かう素振りすら見せなかったのだから。 そして、もう一つは――自身の身体能力を限界まで引き上げる薬。 痛みを遮断し、脳の限界を超え、全身の力を活性化させる薬だった。 ――その時を、待つ。 『玩具屋』が選んだのは、袋小路の前をいく選択肢。ラストを殺さず、殺しはしなくとも――痛めつければそれでいい。 そうなった状態で、ラストをヌルに引き渡せばいいではないか。そうなれば後は、怪物同士の殺しあいになるだけだ。 自分はそのまま『喜笑』達の戦いに巻き込まれぬよう逃げる。 そこまで出来れば、この戦いは終わりを告げる――――故に。 ――僕は待つ。 ――身体能力を引き上げる毒を使用する隙が生まれるのを。 ――もう分かっているだろう? 僕が戦う気でいる事くらい。 霧散した筈の緊張感が、二人の間を再度走り抜けた。それを契機に、ラストも気付く。 『玩具屋』がその道に至ったということを。 そして、数秒の沈黙が過ぎ去り―― ラストは自身の前に三つの魔方陣を展開した。
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