玩具屋

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――隙が。 ――出来た! どんなに速い魔法が来ようとも、手元にある瓶を口内に摂取する方が速い。そして、その即効性は『玩具屋』の持つ毒の中でも、五指に入る速さを持つ。 その速度は――まさに光の如し。 ラストの織り成した魔方陣の全てが展開するより早く、『玩具屋』の全身が雷に打ち付けられたかのように痙攣する。 背筋が海老反りになり、鼻からは大量の血が吹き出たが――『玩具屋』のみせる笑みは、背筋を凍らせるには充分なものだった。 そして、男はラストの元へと駆け抜ける。どんな魔法が来てもいいようにと、狙いを付けさせぬ為に縫い動きながらラストへと迫っていく。 ――シッ! 人間の限界を、幾重にも超えたであろう速度で振るわれた拳。 ラストはあらかじめ距離を取ろうとしていたのが幸を成してか、ギリギリのところで身をかわす。 だが、二撃目からはそうもいかない。そのまま追うようにして踏み込まれた足は、ラストの爪先を容易に踏み潰す。 グジャリという音が響き、痛覚がラストの脳に届いた瞬間には――『玩具屋』の拳はラストの脇腹に深々と突き刺さっていた。 「ぐ…………!」 骨は折れ、内臓にも深刻なダメージが通る。体術で劣っているのは分かっていたが、ここまで強いとは思わなかった。 ――いや……! 違う。『玩具屋』が飲んだのは、身体能力を増幅させる薬か。 それならば、摂取した瞬間の異様な反射も充分納得できる。 一瞬の間に、朧気ながらも確信するラスト。それでも圧倒的な速度と重さからなる連撃は、止まる事を知らずにラストを砕いていく。 ――……だが。 ――これで! もう右肩の骨は外れ、足の骨にもヒビが入っている状態。それだけでないだろう。正確な診断など、今はもうできないほどに消耗している。 それでもラストは笑った。同様に『玩具屋』も笑みを返す。 ――『勝ちだ』! 奇しくも同じ言葉を脳内に浮かべ、ラストと『玩具屋』は視線をかわした。そして―――― 『玩具屋』の持っていた小瓶がラストの眼前で砕かれる瞬間。 『玩具屋』の背後から現れた光の斬撃が、彼の右腕を消し飛ばした。 その斬撃の勢いは、それだけに止まらず――地面を抉り続けながら民家をも破壊の渦に巻き込んでいく。
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