玩具屋

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――な! 先程まで腕があった空間には何もなくなっていた。光の光線とも取れる斬撃に抉り取られても『玩具屋』が苦痛の色すら見せなかったのは、単純に薬の効果によるものだろう。 『玩具屋』が衝撃を受けたのは、その斬撃の威力。 自身の腕を切り裂いただけで収まらない斬撃は、街を切り裂き虚空に消える。 数瞬後、瓦礫の崩落が耳に伝わるが――そんな事に意識を向けている場合ではなかった。 ――新手……『虚飾』か?! ラストの吐いた言葉が虚言だったのか、それとも監視者としての仕事を成したのか。 今の『玩具屋』にはどちらでも良い事だったが、集中すべきは背後の気配だ。即座に振り返り、斬撃を放った主を見つめる『玩具屋』。 「……」 そこにいたのは、金髪の男だった。 時代遅れの甲冑を身に纏い、歴戦の強者といった体の頬にある傷跡。 顔つきはまだ若さが残るものだが、その威圧感は『玩具屋』を警戒させるに充分なものだ。 「……貴様は」 「……」 一体何者か。 自分の敵であることは確かであるが、こんな男は知らない。そう口にしようとしたが――甲冑の男の姿が突如として霧散した。 「……な――ぐっ!」 驚愕と同時に訪れたのは衝撃。 脇腹からの鋭い一撃に『玩具屋』は成す術なく吹き飛ばされる。 しかし、咳き込みながらも衝撃の正体を視認する様は――流石、スタージャに所属する者というべきか。 だが――そこで『玩具屋』を襲ったのは、新たな疑問と衝撃。 ――誰、だ? 自分を吹き飛ばしたのは甲冑の男でもなく、ラストでもなかった。 古めかしい民俗衣装を纏った小さな少女。 目の淵に赤い化粧を施した可愛らしい顔つきをしていたが、目を引くところはそこではない。 彼女の背中から生えた小さな羽。まるで天使のような姿に、いよいよ『玩具屋』の脳の処理が追い付かなくなる。 そして、少女の姿が――消える。煙のように消えた少女がいた場所に、再度現れた存在――ソレの名称を『玩具屋』は知っている。 ――……地獄の番犬、だと?! 三つ首の狼。 少女が消えた場所から現れたのは、地獄にいるとされる悪魔――通称ケルベロス。
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