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勝てない相手――ではない。
仮に自分の体調が万全なら、そして数多の毒を手足のように扱えたならば、無傷とはいかずとも敗北は無かった筈だ。
しかし、今の自分ではどうだろうか。毒のほとんどが封じられ、麻薬で強化したとはいえ――通常なら立っていられない傷を負っているこの現状で。
――いや、それより……!
それでも『玩具屋』が恐れたのは、そして理解できずにいたものは、ケルベロスに沸き上がったものではない。
彼が最も恐れたのは、悪魔の背後で肩を揺らすラストである。
――コレは……召還魔法……?
ありえない、と『玩具屋』は自身の考えを打ち消す。
三年前――あの事件が起きた直後、世界に起きた大規模な変化の内の一つ。それが、召還獣の消滅だった。
正確に言えば――召還獣が消滅した訳ではない。単純に、こちらの世界から彼等を呼び戻す事が出来なくなったのだ。
例えそれが、十年来の友とした召還獣であっても。戦場をともに駆け抜けた戦友であっても。
種族の垣根を超えた、恋人であったとしても。
自分達の呼び掛けに、召還獣達は一切の反応を示さなくなってしまった。それが、三年前の戦争を隔ててから起きた、世界の大きな変化であったのだが――――
――この少年は、ソレを使用している?!
――馬鹿な、考えろ……! そんな事をできる人間が、今この世界でどれだけいる? ありえないだろう!
――……ならば、僕が見ているものを……一体どう説明すればいい?!
斬撃を放った戦士や、強烈な一撃を加えた少女だけが相手ならば、この疑問は抱かなかっただろう。
しかし、今いるのは地獄の番犬。
こんなものを模する魔物なぞ存在しない。故に、コレがここにいるという事は、ラストが失われた魔法を使った証左となる。
――それではまるで……あの人のようではないか……。
『玩具屋』の脳裏に映るのは、二十年は昔の懐かしき光景。自分が焦がれた力を振るう、気だるげな少年が戦う様だった。
しかし、戦況は男に思い出に浸らせる事を許さない。
弾け飛ぶようにして、三つ首の狼が『玩具屋』へと襲い来る。
それだけで周囲に突風を巻き起こす勢いだったが、薬によって研ぎ澄まされた感覚は、それすらも容易に見切った。
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